MOTÖRHEAD
最強のスリーピース
ドラム、ベース、ギターとヴォーカル、一般的には、これら4つの楽器があってバンドの最小編成、とされている。そのうち、楽器を弾き(あるいは叩き)ながら歌えば、ロックの世界においては特別に、「スリーピース」という呼称が与えられる。モーターヘッドは、ハードロック、メタル、はたまたパンク界隈の者からも尊敬の念を集める、スリーピースを極めたバンドだ。
グリーンには、バンドのロゴ、そしてアイコン、「ウォー・ピッグ」が配されたシャツを着ている者が散見され、モーターヘッドのコアな人気ぶりがうかがえる。メンバー3人がさりげなくステージに現れ、レミーの軽い挨拶を経ての1曲目は、”We Are Motörhead”だった。
絶えず踏みつけられるバスドラム2発とタム回しが音の隙間を埋めて、レミーはベースを叩くように弾き、雷か、はたまた大きな岩が転がり落ちてくるかような音を重ねながら、下向きに取り付けられたマイクをしゃぶるように歌う。「しゃがれ声」の一言では収まりきらないほどの荒れた声は、デビュー当時と比べてもなんら遜色はない。そして、フィル・キャンベルの歪んだギターがベースの低音とタメを張る厚みをもって、モーターヘッドとしての音に仕上げていく。
その音は、絶えず疾走していて、ロックのネタ話ともなっている、「ボリュームの目盛りが11まであるアンプ」(※『スパイナル・タップ』より)が実際にあるのではないかと思わせるほどの爆音。まるで、「塊」がこちらに向かって突っ込んでくる、という感じで、全身を揺さぶり、内蔵を転がしてくるのだ。
フィルによる泣きのギターソロや、ミッキー・ディーによる手数の多いドラムソロなども盛り込まれており、それぞれのテクニックを存分に楽しめ、見ている者を飽きさせない。それまでの勢いをまったく殺さないばかりか、むしろ、レミーを加えて再度3ピースに引き戻した時に、よりいっそう勢いを増すように計算されていた。
レミーは、各々のソロの時間以外は、ほとんどマイクのそばから動かない。曲と曲との間には、必ずと言っていいほどボトルに入った酒を流しこみ、コール&レスポンスを促す。しかし、レミー自身の荒れた声と寄った声調、そして、オーディエンスの大多数が英語を苦手とする日本ということもあって、なかなかうまくハマらない。少しだけ気をつかったのか、ギターのフィルを「(俺と違って)こいつは『ヒューマン・イングリッシュ』だぞ!」とジョークを飛ばしてMCをゆずったりもしていた。
ライヴは終盤に向けどんどん勢いを増していった。そして、”エース・オブ・スペーズ”からの”オーヴァーキル”で大合唱が巻き起こり、ハイライトを迎えた。置き去りにされた楽器は止まないフィードバックノイズを残し、メンバー3人が、かわいらしい子供と共にスティックやピックをオーディエンスに向かって投げ込むサービス精神を発揮して大団円を迎えたのだった。
話はこれで終わらない。ライヴ直後、フジロックのスタッフが、「バスが通ります!道を開けてください!」と言った直後、なんと、ついさっきまでステージにいたモーターヘッドご一行の乗ったバスであり(ライヴ終了10分後くらいのできごとだった)、運良く立ち止まったオーディエンスが見たものは、スモークの貼っていない助手席に座り、親指を立てるレミーの姿だった。