BENJAMIN BOOKER
踊るように撃つように弾くギター
ラフ・トレードが契約したニューオーリンズの黒人シンガーソングライターという時点で、絶対ユニークなアーティストだと思っていた。が、今年2月の単独公演を見逃しているので、かなり期待してフィールド・オブ・ヘブンにたどり着くと、同じ思いの人や既に「ベン様〜」と嬌声を上げているファンもいるという歓待ぶり。
ラグタイム風の古の入場BGMに乗って出てきたベンジャミンは黒いTシャツに黒のスリムパンツ。世界共通の若者ファッションが意外だったが、フルアコのギターを抱えて戦闘態勢に入ると、やはりそこらの若者ではなかった。
ベンジャミンを囲むようにステージ内側に向かってセッティングされているマックス・ノートンのドラム、高い位置でベースを構えるアレックス・スポトー。ベンジャミンがファズを踏み、サイコビリー調のファストなビートが刻まれると、あらかじめイメージしていた、「パンク・ミーツ・ブルース」というバンド像もなんか違うんじゃないか?という、ただただ3人の肉体を通して放たれるロックンロールがここで鳴っている。ほぼデビューアルバムでセルフタイトルの『ベンジャミン・ブッカー』からの選曲だが、そこはライブならではの緩急を見計らって間奏やソロを自由自在に展開していく。
盛り上がるオーディエンスに対してもクールなスタンスが意外だったが、たぶんベンジャミン・ブッカーはロックンローラーであると同時にアーティストなのだろう。コンテンポラリー・ダンスの踊り手か、それとも何かアスリートのようなアクションで、最高の”ノイズ”をまき散らすエレキギターとともにダンスしているみたいなのだ。しかも、静かなナンバーでは詩人のようにつぶやくような静かなボーカルを聴かせたり、かと思えば同じ1曲なのか?と一瞬分からないぐらい、哀愁漂う展開からガレージパンク顔負けのカオスに突入していったり、まさにバンドそのものが生き物のように臨機応変にうごめく。
ベースのアレックスがバイオリンに、ドラムのマックスがマンドリンを弾きながら、バスドラを踏んだナンバーでは、ベンジャミンは煙草をふかしながらスタンドマイクでアクションも表情も豊かに歌う。ライブを見ながらいろいろなアーティストが頭のなかに去来したのだが、ソウルシンガーよりは、ルー・リード、バンドの在り方としては日本のandymori、ギターサウンドに関してはジャック・ホワイト…そう、シンプルだからこそパワーを持つ無二のソングライト能力を持つアーティストが勝手に浮かんでいた。
これがUK出身ならいざ知らず、ニューオーリンズの褐色の青年のロックなのだからユニーク。久々に何のジャンルにも括れないし、背景がいい意味で分からない人に出会えて最高の気分だ。