BLOODEST SAXOPHONE feat. JEWEL BROWN
楽しむホストに、楽しむレジェンド
8年前にブラッデスト・サキソフォン(以下、ブラサキ)を知った時、「フジロックに出るのは間違いない」と思っていた。結果として時間がかかってしまったけれども、今まで出ていないからといって、日本のジャンプ&ブルースバンドのトップだということは揺るがない。伊達に「ホンカー(なぶるように吹くサックス奏者)」の第一人者、ビッグ・ジェイ・マクニーリーから名指しされているわけではない。
今回のセットは、かの「サッチモ」こと、ルイ・アームストロングの楽団で歌姫として君臨していたジュウェル・ブラウンとのスペシャル仕様だった。彼女を気持ちよく迎えるために、まずはブラサキがフロアを暖めていく。
「どうも、ブラッデスト・サキソフォンです、ヨロシク!」
ブラサキ、もとい甲田”ヤングコーン”伸太郎の場合、「よろしく」ではなく「ヨロシク」だ。細かいことだけれども、ただそれだけで、彼の性格がわかるというもの。はしばしに硬派な香りが漂うバンドをまとめあげる彼には、頭のてっぺんからつま先まで、ズドン!と一本の芯が通った「美学」がある。そのため、ブラサキのメンバーはもちろんのこと、正式なメンバーではないが、気心の知れた仲間としてゲスト参加したキーボードの伊東ミキオからの信頼は厚い。
与えられた時間が少ないなか、駆け抜けるように3曲たてつづけにブラサキの曲を披露し、いよいよ御大ジュウェル・ブラウンの登場だ。スタッフにエスコートされ、ステージ中央に置かれた椅子に座った彼女は、クリスタル・パレスに集まったオーディエンスを見るやいなや、かわいらしい笑顔を振りまき、「awesome!(オーサム!)=素晴らしいわ!」と連呼する。
準備が整い、ジュウェルが歌いだした瞬間、時計の針は逆回転をはじめる。彼女は、御年77歳とは思えないほどの若く艶めかしい声を響かせ、猫なで声を披露したりと、とても上機嫌だ。”Crazy Mambo”では、「Hey Now!」の掛け合いで、彼女の遊び心が顔を出す。歌ってまず右のオーディエンスを指差し、次は左、最後は正面と、にこやかに参加を促すのだ。
さらに、曲が終わるとジュウェルはすかさずドラムを見つめ、身振り手振りを交えて「Do it!(早く!)」とせかす。彼女は多弁で、傍らに立つ甲田は、その言葉のひとつひとつに耳を傾けては頷く…確かに頷いてはいるのだが、「何言ってっか全っ然わかんねぇ…」と苦笑いするのがおきまり。自主イベント以外では、決まってポーカーフェイスに振る舞うブラサキも、やっぱりレジェンドには敵わない。ただし、演奏に入ればブラサキは超一流だ。激しい曲では力強いうねりを生みだし、バラードではジュウェルの歌声をさらに浮き彫りとするような、緩急を使いわけた展開の妙を見せつける。
笠置シヅ子のカバーで、今回のアルバム『ROLLER COASTER BOOGIE』のリードトラックとなっている、”買い物ブギー”にさしかかれば、一段とオーディエンスは沸き、合唱していく。ジュウェルは、長いキャリアの中でも初の日本語曲なのだろう、日本語で歌うことが面白くって仕方がない、という感じで、体を上下させて踊りまくっている。
それは、若くて、今まで共演してきた「レジェンド」と比べてもなんら遜色のない、「ブラッデスト・サキソフォン」というバンドと出会えたことが嬉しくて仕方がないといったこともあるだろう。ギターのShujiのソロに歓声をあげ、甲田のサックスさばきに驚嘆し、ユキサマのバリトンサックスの響きにCohのトロンボーンのミュート使い、キミノリのドラミング、ザ・タケオの丸みのあるベースラインに、伊東ミキオのパン・ピン・ピアノそれぞれに熱い視線を投げかける。そして、オーディエンスへと向き直り、今回のスペシャルなバンドを自慢するのだ。
ひとしきり盛りあげて、ブラサキがライヴでずっと演奏してきたカバー曲、”トワイライト・タイム”へ。彼らの過去のアルバムに収録されたアレンジはそのままに、ジュウェルの低くろうろうとした歌声が気持ちよく響く。そのまま、熱と笑いに溢れた雰囲気の中で立ち上がり、手をひかれて帰りかけるも、たびたびエスコート役のスタッフを振りほどいて腰を振り、凄さとかわいらしさ、そして名残惜しさを見せつけて、バックステージへと消えていった。そして、出番を終えた甲田は、スタンバイしていたペロスキーのドラムに捕まえられ次のように言われていた。
「こんなバンドは見たことないぜ、アメリカにもいないんじゃないか! 最高だったぜ!」
フジロックを経て、再びブラサキの成り上がりが始まるのかもしれない。