思い出野郎Aチーム
親近感に満ちた音楽
「とりあえず俺は、フジロックに向けて、新しい短パンを買ったので、みんな前にきて観てください!」。そんな思い出野郎Aチームの愉快な第一声に、グッとステージ前に押し掛ける観客を観て、おぉ、初っ端から何か面白いものが観られそうだ、というバンドへの期待度が一気に上がる。バンドの結成は、2009年。それぞれが多摩美術大学に在学していた頃、一緒に飲んでいた面々が比較的ノリで集まって作られた。初期の頃は、現担当パートの楽器を触ったことがないけど、なんとなく見た目から「できそう」というところからスタートすることも。それだけに、まさしく「楽しい」が前面に出ているバンドである。しかも、2012年にルーキー・ア・ゴーゴーに出演し、今回はようやく苗場食堂での登場と、やはりメンバー的にもよりハイ・テンションになっているのだろう。
ベースの長岡智顕、パーカッションの松下 源、トランペット&ヴォーカルの高橋 一、 キーボードの宮本直明、ドラムの岡島良樹、ギターの斎藤録音、 バリトン・サックスの増田 薫の7名と、大所帯で登場。まずは、“グダグダパーティー”からスタートしていく。その少々しゃがれつつも味のある高橋の声と、鮮やかなサウンドの広がりに、3日目でどんなに身体が疲れていようとも、どうしてもリズムに乗りたくなってしまう。続くは、“週末はソウルバンド”。〈私の彼氏は 才能もないのにバンドなんかやって〉と女性目線で赤裸裸に綴られる内容がまた良く、ついつい、あぁ、その感じ分かるわぁ…とあたかもちょっと飲みながら、友達のグチでも聞いている気分になってくるのだ。暑苦しいと言えば、そうなんだけど、なんだかほっとけない。近寄りたくなる音楽である。
「次は雨の曲なんですけど、これをやると晴れるので、踊って帰ってください。終日、晴れて良かったです」という高橋のMC後は、“雨の街”へ。ソウルのような、ダンス・ミュージックのような、ゆるやかでゴキゲンなアンサンブルや気持ちの良いメロディが響いていく。なぜだろうか…メンバーと直接話したことはないけれど、観ているだけなのにすでに親近感が半端ない。この感じ、なかなかクセになりそうだ。その曲終わりには「改めて思い出野郎Aチームです。前回はゲートの外だったから、今回はゲートの中で嬉しいです。次は、もっとでかいところでやれたらいいですね(笑)」と話し、“side-B”、“TIME IS OVER”を。スロウなミディアム・ナンバーで、ゆったりと観客の心と身体を揺らしていく。初聴の楽曲でもすんなり染み入り馴染むだけに、このフジロックに終わりが近付いていることに名残り惜しくもなれば、あぁ、このまま続けばいいのになぁ…と心底思ってしまった。“side-B”で歌詞を変えて、〈苗場の森の中で みんなで 君と君と君と パーティーを再開しよう〉と歌っていたが、まったく同じ思いになってしまうくらいに。
ラスト曲には、ライヴの定番曲であり、きらびやかなシンセが印象的なファンク・ナンバー「ミラーボールの神様」を披露。最後には、高橋の声がガラガラに。曲中に「水のみてぃ〜」と話していたけれど、そこにも集まった観客は大笑い、というか少々応援気味で、さらにヒート・アップ。終始、ぽっと胸の中が温かくなるような、ひと時を届けてくれた。8月22日には、『思い出野郎Aチーム presents SOUL PICNIC』と自主企画もあるそう。このバンド、ぜひとも追いかけていきたいなぁ、と思った次第である。