LIVE REPORTRED MARQUEE7/28 SAT
D.A.N.
© Photo by Yumiya Saiki© Text by 石角友香
Posted on 2018.7.28 20:55
音楽の快楽をストイックに更新し続ける3人
2年ぶり2度目のフジロック出演となる今回。約一週間前に2ndアルバム『Sonatine』をリリースしたばかりというタイミングだが、リリース日にもライブを行うなど、バンドの筋力が相当上がっている中でのフジロック出演は最高のタイミングに思えた。時にこの新作のインスパイア源の一つが北野武監督の同名映画だと知った。その上で聴くと個人的な感覚だが、生も死も紙一重という諦観と、同時に海の美しさや夏の気だるさも相まり、人間の思考と行動の甘美な不条理……そこまでハードボイルドではないとしても共振するセンスだなと感じた。
肝心のライブである。最近、メンバー3人だけで構成しているだけに、過去曲も大幅にアレンジが変更され、櫻木大悟(Gt/Vo/Syn)がギターを持つことはほぼなくなり、ボーカルとシンセに注力していることがまず一つ。そしてシグネーチャー的に登場するシンセのサウンドも変わった。同期はありつつ、リズム隊もメロディ楽器的なアレンジと演奏をそもそも携えたD.A.N.は、ますます生演奏で未踏の領域に踏み出しているのだ。
長めのオーバーチュアでメインテーマが出てくるまで“Zidane”と思えないアレンジだが、冒頭からフロアは完全に麻薬的なまでにD.A.N.のグルーヴにはまってしまったようだ。そのままシームレスに市川仁也の振り子のようなベースがボトムの太さと洗練を同時に感知させる新曲“Sundance”へ。少し不穏なムードもある曲で、しかも歌詞は「空回るエモーション 安心できないで くれ」と、“Chance”以降、少しハードボイルドになったD.A.N.の歌詞表現の中でも、「共感地獄」的なものを揶揄しているように聴こえた。もちろん長くミニマルにじっくり攻めてくる展開ありきなのだが。
もはや“SSWB”はキラーチューンといったリアクションで、「ヤバい!」「良すぎる!」から言葉にならない叫びまで、D.A.N.に骨抜きにされた声が各所で上がる。ただ、明確にこれまでと質感の異なるビートやヘヴィなサウンドで驚かせた“Pendulum”の、どこかNINE INCH NAILSのインダストリアル感と従来のメロウネスが交配したようなアグレッシヴさが新しく、今のD.A.N.を刻み込む。
また、市川の3拍子のベースと、同じリズムではない川上輝のドラムが、ラテン・リズムの換骨奪胎と言えそうな“Replica”も、3人が何度も最高のタイミングを探りながら作り出した新しい構成なのだと思う。しかし思考からじゃなく、ライブの現場で体験するそれにオーディエンスは自分の乗りやすい拍を見つけて、各々揺れている。もともと、酩酊グルーヴで自由に乗れるバンドではあるけれど、さらにオーディエンスもタフになった印象だ。前方にいる誰もがその場を立ち去らない。フェスでは珍しいことなのだ。
2年前は映像も効果的に使っていたが、今回はシンプルな色彩、効果的なムービングライト程度で、演奏の牽引力が相当高いことも明らかになった。ラストに演奏した“Chance”も、去年の夏ごろからライブでプレイするようになってすっかりキラーチューンに。妥協なきアンサンブルの追求でバンドとしてニュートラルにどんな世代の音楽好きにも聴いて欲しい。日に日にレベルを上げるD.A.N.。もう彼らの音楽がなかった頃には戻れない。それは個人的にも音楽史的にも、だ。
[写真:全10枚]