LIVE REPORTCafé de Paris7/29 SUN
ハモニカクリームズ
【すべての踊りたいひとたちへ】
「オーディエンスさえ来てくれれば」…フジロック初出演、「ケルトxブルーズ」を掲げるハモニカクリームズ(以下、ハモクリ)には若干の懸念があった。メインのグリーンステージにて、話題性抜群のSuchmosと時間帯が被っていたこと。通りすがりが起こりえない、最果てのカフェ・ド・パリだということ。逆に言えば、オーディエンスの数を除いて、やきもきする要素は無かった。
というのも、彼らは世界レベルでの「ベストアクト」を経験済み。2012年、スペインのガリシア地方で開催されている、世界最大のケルト・ミュージック・フェスティバル、「Festival de Ortigueira」においてグランプリを獲っている。それも、「ケルト・ミュージックの未来を切り拓くバンド」として、だ。
つまるところハモクリは、世界が認めた、全く新しい音を奏でるバンドと言ってもよい。主にパリのブルーズ畑で活躍するハーモニカ奏者・清野美土をリーダーとし、様々なユニットや劇伴などをこなすフィドル(バイオリン)の大渕愛子、本場でアイリッシュギターを叩き込まれた長尾晃司からなる百戦錬磨の3人組が基本のメンバーだ。そこに、サポートとしてドラムが加わる。今回はbonobosより、田中佑司が参加。彼がバンドに与えるのは、正確なリズムと、圧倒的ユーモアに他ならない。ドラムの長所を受け止めて、ステージごとに変化するのもハモクリの特徴だ。
蓋を開けてみれば、テントの中は満員御礼。リラックスした状態で登場した彼らの1曲目は、ニューアルバム『ステレオタイプ』からの”Polaris”だった。ハイハットの小気味良いリズムに、ベースラインの役割をも担う長尾のギターが、跳ねるように絡んでゆく。ハーモニカとフィドルのユニゾンがメロディラインを生み、それはまるで歌のように響いてくる。大渕は、清野の動きを鋭い視線で見つめ、呼吸を合わせる。横に揺れるだけでなく、縦に飛び跳ねることもできる不思議な曲は、フロアに存在する顔の数だけダンスを生んでいた。
続いては前作『アルケミー』から、リードトラックの”Axis Mundi”。ドラムとギターが生み出すリズムは、1曲目とは打って変わって、縦ノリ以外の選択肢を与えない。時間差でフィドル、さらにはハーモニカが相乗りして、緩やかな上昇曲線を描いていく展開は、気分を高めるのにうってつけだ。それでいて、リズムのみが常に一定なあたりは、多分にEDM(エレクトリック・ダンス・ミュージック)の影響が見てとれる。時折、ハーモニカをなぶるようなブロウを差し込んだり、終始ハイハットを刻んでいた田中が、終盤でクラッシュシンバル中心のスタイルへ移行したりと、時間の経過でどんどん形が変わるのもまた面白い。人力生音ダンスミュージック、ここに極まれり。
ハーモニカがまるで、ディジュリドゥのように響く壮大な”Alba”、そして、主に清野のアイデアやアドリブ次第でガラリと風景が変わる”Eve Vote”は、彼らの奥深さ、底知れなさを感じさせる。後者は、ハーモニカを吹きながら「キテクレテ、アリガトウ」と、まるでロボットボイスのように喋る。引き出しとアイデアの幅広さは、清野が叩き上げだからこそで、「say, yeah!」の掛け合いもバッチリだ。しまいには、ドラムの田中までもがステージ全面に出てくるほど。
これら2曲と、”Dance of Quadra”のセッションを思わせる序盤が、熱く火照った体をやんわりとクールダウンさせてくれた。そして、田中のショットを合図に、再びギアがトップへ。序盤と終盤でギアが切り替わるのは、ラストに持ってきた”Saint-Sebastien”も同様だ。一定のリズムで進む曲があれば、すべてをひっくり返す勢いで攻め立てる曲もある。掛け合い、アドリブ、ユニゾン、四つ打ち、コール&レスポンス、ありとあらゆるカードを用いてカフェ・ド・パリを掌握したハモクリのフジロックデビューは、大成功のうちに幕を閉じた。
アンコールの声は止まなかったが、再登場は無し。かつて、ハーモニカの全国大会に出場した清野の逸話。テンションが上がりすぎて、大幅に時間をオーバーし、会場は大いに盛り上がったものの、失格となったそうだ。だが、その道の大御所は、彼に最大級の賛辞を送ったという。打って変わって今回のステージは、きっちり時間通りに収めた。その結果、SNSでは「まだ足りない!」、「ヘブンで是非!」との声があがり、さらには、「ベストアクト」の称号も勝ち得たのだった。
Polaris / Axis Mundi / Alba / Eve Vote / Dance of Quadra / Kaprekar #6174 / Saint-Sebastien
[写真:全10枚]