FUJIROCK EXPRESS '19

LIVE REPORTGREEN STAGE7/27 SAT

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Photo by 古川喜隆 Text by 石角友香

Posted on 2019.7.27 22:37

フジロック23年の歴史に新たな世界観を刻んだ1時間半

おそらくグリーンステージに集まった3〜4万人がアンコールの後、終演した瞬間「ほー!」とか「はー!」と声を発したことはフジロック23年の歴史の中でもなかったんじゃないだろうか。その声の種類は単純にため息や種明かしをされた驚きとも言えない、もしくはその両方の気持ちがこもっているとも言える。単に演劇的なパフォーマンスであるだけでなく、曲とSIAの歌唱にテンションは上がっても、どこか物悲しさや息苦しさが残る。いわゆるライブパフォーマンスとしての演者が放つカタルシスとは異質なアートフォーム。立ち尽くしていたのはSIA本人だけじゃなく、ほとんどのオーディエンスもそうだったのではないだろうか。

ミュージックビデオである程度、予想できたとは言え、オープニングでのSIAのドレスのスカート部分が分解し、マディー・ジーグラーが「誕生」したかのような演出は、マディーを分身としてステージに放つ儀式のように見え、鳥肌が立った。そこからのマディーのパフォーマンスは、あまりにもスキルと表現力が高い。しかしそれはビジョンに映っているものを見ているので、ステージ上とは別物なのでは?と疑ってしまうほどだった。しかしパフォーマーもすごいけれど、1時間半、直立で歌唱だけに専念するSIAも生身の人間と思えない集中力だ。その場に存在していることは、紛うことのない事実だが、リズムをとったり身振りをしたりしないSIAは目に見える虚構のようだ。

パフォーマーの表現と曲の相乗効果は、いずれも高い次元で化学反応を起こしたが、こと強迫観念に関する部分では“Reaper”でのマディーの不安発作的な表情と動きにまず圧倒された。他に男性のパフォーマーが3人、女性がもう一人、入れ替わりで曲の世界観を演じていく。男性、女性それぞれの葛藤を“Big Girls Cry”などで描いた上で、男女間の残酷なまでのすれ違いを、パフォーマンスで、より凶暴で攻撃的なものに昇華していく。ステージ作品としては納得するけれど、迫真という言葉以外、どう表していいのか分からないパフォーマンスが続く。自身が前面に立たないことを選んだSIAは、曲のメッセージを伝えるために、より強固なショーを作り上げてきたのだなと、作品への自信、ひいては彼女が経験してきたことの重さを知る。高次元のアートが作られた背景にある構造の恐ろしさ。

曲間のつなぎはライブ映像からすでにある映像が接続され、さらにライブにつながっていく。ライブでありパフォーマンスを途切れさせないための手法だが、最後の最後に「虚構を完成させるためにそこまでやるか」と、薄ら寒いような、同時にユーモアを感じるような場面を迎える。曲間のつなぎの演出は最終的にエンディングで回収されていく。

人間関係、特に男女関係の一筋縄でいかない表現は対立と融和、そのまた次の瞬間にはすぐまた裏切り、そして抱擁……。動物的なアクションに演出されているが、人間の中の暴走する本能を目の当たりにするようで、熱を帯びていくSIAのボーカルには歓声が上がりながら、ただカタルシスに浸ることは難しい。逆に男女をパンダとウサギの被り物にし置き換え、仲違いしたり、一人でも歩いたり、二人揃って歩いたり、距離ができたりする演出に感情移入してしまった。傷つけ合うほどの感情を持つ者同士にしか築けない関係。この演出で感情の防波堤が壊れた人は多かったのではないだろうか。

繰り出される曲は世界的なヒットチューンばかりなのだが、今、目の前にしているコンテンポラリー・アートとでも言うべきパフォーマンスに簡単に騒げない。しかし流石に“Chandelier”ともなると、イントロで歓声が上がる。もちろんモッシュピットはさらに熱狂的なのだろう。自室のベッドと机を小道具に、壊れてしまいそうな精神状態を圧倒的な体力と表現力でマディーがイメージを増幅させて見せる。ここまで登場してきた男女が勢ぞろいした本編ラストの“The Greatest”。ここでも力関係を思わせるパフォーマンスで、不穏なまま終了するという、SIAらしい世界観で完結。さらにはライブでの役柄と言うべき登場人物が、別撮りの映像で挨拶するように流されたのは周到だった。

さて、曲間のつなぎの映像と終演後の映像の関係だが、ライブ終了後のマディーを追うカメラが捉えているのは「今ここ」じゃないことに気づく。最後に楽屋にいる後ろ姿のSIAを捉えたところでショーは完結。グリーンステージにいる約4万人がため息とも納得とも言えるリアクションをしたのはある意味、当然だったのかもしれない。

これぞSIAにしかできないライブという人もいれば、これはミュージックビデオの再現だという人もいるだろう。革新的だという人がいる一方、ライブってこういうことではないだろうという人もいるだろう。意見が分かれるほど、これまでにない問いかけをしてくれたことだけは間違いない。土砂降りの中、離脱する人が少なかったことを鑑みるに、ほとんどの人がSIAの術中にはまっていたのだ。

[写真:全10枚]

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7/27 SATGREEN STAGE