FUJIROCK EXPRESS '19

LIVE REPORTGREEN STAGE7/28 SUN

THE CURE

  • THE CURE
  • THE CURE
  • THE CURE
  • THE CURE
  • THE CURE
  • THE CURE
  • THE CURE
  • THE CURE
  • THE CURE
  • THE CURE
  • THE CURE
  • THE CURE
  • THE CURE
  • THE CURE
  • THE CURE
  • THE CURE
  • THE CURE
  • THE CURE
  • THE CURE
  • THE CURE

Photo by 安江正実 Text by 三浦孝文

Posted on 2019.7.29 02:24

ロバート・スミスの世界を堪能する濃密な時間

今年は、ザ・キュアーにとって何かとメモリアルな年だ。デビューアルバムの『Three Imaginary Boys』リリース後40年で、名盤『Disintegration』のリリースから30年ということで全曲再現ライヴも行っている。そして、ロックの殿堂入りを果たし、ナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーから愛あるコメントを受けていたのも記憶に新しいところ。そして、ザ・キュアーのラストアルバムになるのではと噂の新作がリリースされるとかされないとか…といった情報も耳に入ってきている。

そんな話題だらけのザ・キュアーが、今や伝説となっている、約3時間、全36曲を演奏した2013年の出演以来、約6年ぶりに苗場に帰還する。

ステージ前で待ちわびるオーディエンスの話し声に耳をすましていると、色んな言語が飛び交っている。今年のフジロックで一番の人種のごった煮感。海外のフェスティバルに来ているような感覚だ。多くのファンが、わざわざ海外から観に来ているという事実に、海外におけるザ・キュアーの人気の高さを開演前から目の当たりにした。

開演予定時刻を10分程度遅れて、グラス同士が軽く合わさる時のようなキラキラと浮遊する音が流れる中、4名のバンドメンバーが姿を見せ、満を持してロバート・スミスが登場した。“Plainsong”の重厚で荘厳なフレーズが響き渡ると、フロアから「ロバちゃーん!」という歓声がそこかしこから飛んでくる。ロバート・スミスがステージを左右にゆっくりと歩き、オーディエンスとの再会を喜ぶかのように立ち止まってはフロアの方を見つめていく様が何とも可愛らしい。

オーディエンスから「I’ve waiting for you for a long time!(ずーっと待ってたよ!)」との歓声が上がり、フロアが笑顔に包まれると“Picture of You”が投げかけられた。この苗場の地での極上の環境の下、世界中の音楽を愛する者たちに囲まれて堪能するロマンチックなメロディとロバートの声。めちゃくちゃ気持ちが良い。今夜の雰囲気にぴったりな空に向かって突き抜けるような爽やかな曲が続いた。

ここから“A Night Like This“、“Lovesong”、“Last Dance”の3曲。個人的にはおセンチなこれらの曲は苦手だったのだが、肩を組んで大合唱しているオーディエンスや大歓声の中で聴いているとまったく違った興奮を伴って聴こえてくるから不思議だ。ついつい一緒に歌い上げてしまった。“Lovesong”の後、あまりの気持ち良さを感じてか「アー!」と叫んでいたが、フロアにいる全員が同じ気持ちだったことだろう。

ここで最初のハイライトが訪れた。ロバートが笛を吹き鳴らし、ヘヴィに熱狂の渦を作り出した“Burn”。主演のブランドン・リーが撮影中に発砲事故で死亡したいわくつきの映画『クロウ/飛翔伝説』の劇中歌だ。強く降り注ぐ雨も、重たいリズムに合わせて灼熱の真紅から白光色とクルクルと変わる照明も演奏に華を添え、オーディエンスを沸かせるのに一役買う。意外なほどダンサブルに変貌した“Fascination Street”からクラブ向きのダンスチューンの“Never Enough”へとなだれ込むという、文句なしの流れだ。

ここからはキラキラのポップチューンの3連発。“Push”の軽快なフレーズが流れただけで、みんながハイタッチして喜んでいる。ほんとにみんなキュアーが好きなんだなぁ。その光景は次の“In Between Days”で更に盛り上がることになる。みんなでピョンピョンと跳ね、主旋律を合唱するのだ。ロバート自身の結婚にまつわるロマンチックな実話がそのまま表現された“Just Like Heaven”で集まった聴衆の多幸感は最高潮に達する。何だこの幸せに満ちた空間は。ロジャー・オドネルのキーボードの調べこそがザ・キュアーのポップ度を向上させる鍵なんだと気づかされる。

この後は“From the Edge of the Deep Green Sea”からしばしの間、ダークでディープな世界に誘われることになる。ロバート・スミスの混乱した頭の中を垣間見るようなギターノイズと咆哮。ライヴだと、悲痛な苦悩に満ちた歌声がダイレクトに胸を打つ。“Play for Today”では悲しげな旋律にもかかわらず、サッカースタジアムかと思えるほどの「オーオーオー」が巻き起こり、幼少期に家族と旅行で訪れたドイツの森で迷子になってしまった時の不安感から生まれた“A Forest”も最後のロバートが奏でる不協和音と、ベースが刻まれる残響音に不安が掻き立てられる。

インダストリアル・ミュージックの祖であることを証明するかのような“Shake Dog Shake”で再び熱狂の渦を場に生み出し、バックのスクリーンに映し出された芋虫のごとく耳の奥で蠢くノイズが不安感をあおる“Disintegration”で歪んだ残響音とともに本セットが完了。すぐに出てくることをみんな察知しているのか、アンコールの拍手が控えめで笑ってしまう。

案の定、すぐに登場して、幼少期にロバートの叔父さんから聞かされた蜘蛛男の恐怖を形にした歌、“Lullaby”を披露。キーボードが蜘蛛男が忍び寄ってきて糸を吹きかけるかのような不気味な効果音を入れて恐怖感をあおる。蜘蛛男の次は芋虫少女、“The Caterpillar”。跳ねるリズムに楽しく会場がポップすると、80年代にタイムスリップしたかのようなキーボードの調べとベースが唸り腰をロックする“The Walk”でダンスタイムを提供し、アコギの弾き語りから入ったスクリーンにハートマークが飛び交う激甘のポップチューン、“Friday I’m in Love”でここ一番の歓声と合唱が沸き起こり、愛に包まれた。“Close to Me”でそのポップさをキープし、“Why Can’t I Be You?”のグルーヴで再度ダンスフロアを作り出す。ラストは、女の子にフラれて、未練がましくも強がっている男の子の青臭いアンセム“Boys Don’t Cry”で締めくくった。本セットの美味しいところを再抽出したかのような濃密なアンコールだった。

ザ・キュアーのライヴを直に体験すると、ロバート・スミスの表現フォームを絶妙にバランスしたよく練られたセットリストだと気づかされる。そして、ひとつのステージを通して、こんなにも多種多様な気持ちを味わわせ、新しい発見を促してくれるロバート・スミスはやはり圧倒的な鬼才だと思い知らされたライヴだった。

[写真:全10枚]

TAGS
7/28 SUNGREEN STAGE