FUJIROCK EXPRESS '19

LIVE REPORTRED MARQUEE7/26 FRI

MITSKI

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Photo by Masanori Naruse (Official Photo) Text by 石角友香

Posted on 2019.7.26 22:47

自由と孤独のパフォーマンス

9月以降、ライブ活動を無期限停止するという彼女。昨年リリースの近作『ビー・ザ・カウボーイ』がPitchforkの年間ベストに選出。それまでのオルタナティヴな女性アーティストというイメージから、洗練されたサウンド・プロダクションの上で感情というより魂を自由に放つような歌が際立つこの作品は世界的に高い評価を獲得した。それだけに日本ではこのフジロックでのライブ以降、次はいつ見られるかわからない、今のMITSKIを確かめにきた人たちがレッドマーキーを埋める。

縦長のアーティストロゴが白く光り、ドラム、ギター、キーボードがステージに上がり、続いてMITSKIが登場。フィットした白いカットソーにフィットネスに着用しそうなタイトなショートパンツ、膝にはプロテクターという衣装。少し不思議なその衣装の訳はすぐ判明する。

キャリアを総括する意味合いなのか、1曲目は“Goodbye,My Danish Sweetheart”でスタートし、続くは新作から“Why Didn’t You Stop Me?”。ここで机を使ったパフォーマンスに移っていく。膝をついて器械体操のようにもヨガのポーズにも見えるようなアクションを見せながら、歌は全くブレない。驚くことに仰向けになって足を動かしたり、大きく反り返ったりしても物憂げなあの歌は変わらないのだ。

これは憶測だけれど、新旧の楽曲を今までで最もアバンギャルドなパフォーマンスという表現で今のMITSKIのショーとして並列し、オーディエンスにとってひと連なりのストーリーを見せようというアプローチなんじゃないか?

バンドの生演奏と無機的なシークエンスが融合する“I Will”や“I Don’t Smoke”などを経て、曲のエンディングで背景のロゴとスポットライトに照らされるMITSKIの組み合わせに鳥肌が立つ。いわばロゴと本人で架空の雑誌のようなビジュアルなのだ。でも華やかというより、ダークで孤独な歌姫といった印象だろうか。ショーの間に3度ほどあったこのシーンはしばらく目に焼き付いて離れないだろう。

MCでは「レッド(マーキー)住まいの皆さん、今日、何曜日ですか?金曜日。よく休みが取れましたね。今日はこんな調子でいきますよ。踊ります」と、彼女流のユーモアが発揮されると、固唾を飲んで見つめていたフロアの温度が少し上がった。加えて、彼女のレパートリーの中でも広く知られる“Nobody”で歓声が上がり、一瞬ポップなモードに入ったが、フロアタムのビートが攻撃的なな“Drunk”で、マイクスタンドをマシンガンのように構えてフロアに向け、シャウト。むき出しのエモーションのようにも思えるが、机を使ったパフォーマンスそのものがアーティスティックなせいか新旧の楽曲に一貫性を見出せる。というか、自分が見出したいのかもしれない。ラストには諦観と平穏と疑いが混ざったような曲、“Happy”を配したのも意味深な感じだ。

「ありがとうございました。MITSKIでした」と深々とお辞儀をした後は潔くステージを後にした彼女。自由と束縛の両方を感じさせる机の上での運動のようなパフォーマンスを突き詰めたことで、表舞台のMITSKIは一つの完成に至ったのだと思う。稀有な場面を目撃できたことに、レッドマーキーを後にする人たちは言葉少なだった。

[写真:全3枚]

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7/26 FRIRED MARQUEE