FUJIROCK EXPRESS '21

LIVE REPORTGREEN STAGE8/21 SAT

King Gnu

  • King Gnu
  • King Gnu
  • King Gnu
  • King Gnu
  • King Gnu
  • King Gnu
  • King Gnu
  • King Gnu
  • King Gnu
  • King Gnu
  • King Gnu
  • King Gnu
  • King Gnu
  • King Gnu
  • King Gnu
  • King Gnu

Photo by 森リョータ Text by あたそ

Posted on 2021.8.28 00:01

2日目ヘッドライナー、King Gnuのライブに日本の音楽の未来を見た

ライブ終了後、とにかく興奮していた自分がいる。なんだか、物凄いものを目撃してしまった。どうしても眠りにつけない夜とか人との会話とか、なんでもいいけど、ふと思い返してみたり、後の世に語られるライブというのはいくつもあるが、この日のGREEN STAGEのヘッドライナーを飾ったKing Gnuのライブは、まさにその場に立ち会った人全員の記憶に強く印象を残す、とにかく言葉では言い尽くせないほど凄まじいライブであった。

メンバーが登場し、まず初めに鳴らされたのは“開会式”。青いライトに、合計15か所から遠慮なく吹き出る炎に、その炎をかき消すかの如くステージ上に広がるスモーク。あのー、これ、予算っていくら降りたんでしょうか?今までヘッドライナーを務めてきた世界に名をはせる伝説的なバンドに引けを取らないカオティックな空間には、思わず笑いそうになる。裏方の方々も、こんな馬鹿みたいに派手なステージを作るのめちゃくちゃ楽しかっただろうな、なんて妄想も膨らむ。
演奏だって、このぶっ飛んだ演出に負けていない。こんなはっ倒されそうになるくらいの音圧を出せるバンドが国内にはいるのかと驚くほどの重い音。けれど、うるささ・やかましさは一切なく、大きな音がひとつの個体となって全身に響くあの瞬間は、たまらなく気持ちがよかった。

“飛行艇”では、すでに温まっている観客が手を左右に振り、常田大希(Gt.Vo.)と井口理(Vo.Key.)の声がコントラストとなって美しく響く。
やりたい放題のステージなのに、“千両役者”ではまばゆいグリーンのレーザーが更に会場を盛り上げていく。King Gnuといえば、フロントマンの2人の顔がパッと思い浮かぶ方も多いかもしれない。けれど、ライブを見てよくわかるのは、リズム隊である新井和輝(Ba.)と勢喜遊(Drs.Sampler)の2人が大きな柱となって、このバンドをしっかりと支えているということ。もちろん、個々の演奏技術はものすごく高い。そこにも十分驚かされるのだが、他のメンバーの音を邪魔せず最大限に生かす形で、音源とは異なる野太いリアルなバンドサウンドに変化させていく。すごい。ドラムとベースでこんなことまでできるのか。全体を通じて各々の音を聴いていると、この2人がいるからこそ、フロントマンは安心して背中を任せることができるのだなと、納得ができる。

1stアルバムから“Vinyl”、2ndから“sorrows”と徐々に会場を温め、次に披露されたのはKing Gnuの名や才能を世に広めるきっかけとなった“白日”。井口に向かってまっすぐと伸びる何重もの白いスポットライト。安定した美しい高音がどこまでも心地よい。この声を聴いているだけで、心を掴まれ、その場から動けなくなりそうになる。
次は、彼らの最新曲である“泡”。身体の芯にまで鳴る重い低音が、やわらかい膜のように身体を包み込む。「泡」というタイトルに、じっくりと聴かせるスローなテンポ。まるで水のなかに飛び込んだような感覚を持つ。音源とはまた異なる印象、そしてライブでしか味わえない感覚を抱くワンシーンでもあった。

メンバーそれぞれが笑顔で楽しそうに演奏する姿が印象に残る“Hitman”に、“The Hole”で披露された一寸も狂うことのない井口の正確な高音にはいつもため息が出る。ときに振り絞るように、ときに軽やかに伸びていくこの歌声は、つくづく唯一無二だなと思い知らされる。
途中、井口がMCにて、今の状況や自分の置かれる立場、他のアーティストのライブを見ても正しさがわからないままステージに立っているという心境、それから「すごくおこがましいかもしれないけど、少しでも明日を笑顔で生きられる力になれたらいいなと、そういう思いで立てたらいいなという気持ちで今日ここに立っています」というリアルな気持ちを涙声になりながら、正直に話す。さまざまな情報が飛び交い、何が本当に正しいのか、どのような行動を取れば間違いがないのか、今の状況下ではわからない。King Gnuに限った話でも、フジロックに出演しているアーティストだけの話でもないが、それぞれが想いを背負って決断をする。さまざまな思いを抱える井口の、ひとりの人間としての本音を聞くことができた。

ライトがサイレンのようにステージを照らし、井口とメガホンを片手に持つ常田が堂々とステージを練り歩いた“Slumberland”、重厚感のある低音が底にまで響き、原曲とは異なる印象を持つ“Tokyo Randez-Vous”。常田のギターソロがばっちりと決まり、終わりに向けて加速していく“傘”と、ただステージを見ているだけでも、新しい気づきや発見が多くある。家で聴いているだけではもったいない。King Gnuのライブを何度も何度も見てしまう理由がよくわかる。

フジロックの2日目の終わりがすぐそばに近づくなか、“Player X”に“Flash!!!”と、強弱をつけながらも身体の残ったエネルギーを出し切るような2曲が続く。しっとり聴かせたあとの駆け抜けるような疾走感がたまらなく気持ちがいい。観客たちも目の前の音楽に圧倒されながらも、手をあげ、手を叩き、ジャンプをし、ステージに呼応する形で楽しんでいるようだった。

「自分の身近な人たちの幸せをひとりひとりが考えた先に、きっとコロナに打ち勝てる時代がくると思うんだよね」「それぞれが周りの奴を守るために生きていこうぜ」という常田のMCのあと、アンコールで演奏されたのは、“三文小説”、“Teenager Forever”、そして「4年前のROOKIE A GO-GOでも最後にやった曲です」という“サマーレインダイバー”。
King Gnuにとって4年という長いようで短い年月の間に、どんなことがあったのだろう。当時から一線を画していたが、場外のあの小さなステージから一気にGREEN STAGEのヘッドライナーへと登り詰めた、その年月の長さと彼らの成長を感じさせる1曲でもあった。途中のMCでもあったが、このバンドにとってフジロックは、大切で特別なフェスであることは間違いないはずだ。

本当に、とんでもないものを見てしまった。気合いと緊張、フジロックへの思い、ヘッドライナーへの責任、さまざまな熱量を感じさせるライブは、息をつく暇すら与えない。ライブとしては当然のこと、ひとつの体験として、ショーとして、自分の理解や感覚を超えたものを見せされると、人は頭が真っ白になってしまう。ライブレポートとしては正しくないのかもしれないが、いくら言葉にしてもまったく語り尽くせる気がしない。
見事にヘッドライナーという大役を果たしたKing Gnuは、これからどこへ向かい、どんな未来を見せてくれるのだろうか。日本の音楽の未来、そのものに対して、更に希望を持てるような90分間であった。

[写真:全8枚]

TAGS
8/21 SATGREEN STAGE