LIVE REPORTWHITE STAGE8/20 FRI
millennium parade
クリエイティビティの集合知
ミュージシャン、映像ディレクター、CGクリエイター、デザイナー、イラストレーター……属している肩書やバンドの垣根を超えたビッグ・プロジェクト、それがmillennium paradeだ。いまや国民的なロックバンドに化けたKing Gnuや、PVをはじめ多方面で活躍するクリエイティブレーベルPERIMETRONなどのコミュニティから構築されている彼らは、もはやひとつの生き物であり、城であり、国家であると思う。
彼らを初めて聴いたとき、本当に驚いた。限りなくアンダーグラウンドなのに、オーバーグラウンドの線も見え隠れしている。それに国内よりも、圧倒的に世界に顔を向けているのだ。ふと思い出したのは『Vulnicura』のビョークだろうか。あの悲しみに満ちたストリングスと、全容が掴みきれない音の厚み、どことなく背筋がヒヤッとする気味悪さ……それらに通ずるものを持ち合わせているように感じた。間違いなく、フジロックでトリを飾るタイプのグループだし、とくに今年のトリにはふさわしいと思った。
ホワイトステージ中央には、巨大でのっぺらぼうな鬼のモニュメントが配置されていて、これに映像を投影していくようだ。火野正平扮する琵琶法師の独特な語りから始まるオープニングムービーが始まると、メンバーたちが登場。下手・上手にそれぞれ石若駿(Dr)と勢喜遊(Dr)、加えて下手側からMELRAW(Sax/Gt/Fl/Vocoder)、江崎文武(Key)、新井和輝(Ba)。中央奥にermhoi(Vo)、森洸大(Vo/Agitator/Artdirector/Designer)、佐々木集(Vo/Agitator/Creative director)のヴォーカル&コーラス隊が並ぶ。そしてステージ前方中央、まるでコックピットのような位置に構えるのは常田大希(Producer/Music)……といった感じだろうか。
音源未発表曲“NEHAN”のセッションが始まると、“Fly with me”のブラスが高らかに鳴らされる。「FUCK YEAH FUJI」と表示されたVJのはっちゃけ具合も最高だが、ゲスト登場したHIMIが森・佐々木とともにステージ上を自在に歩き回りながらパフォーマンスする様子もまたクールだった。舞台中央ののっぺらぼうなモニュメントには、同曲PVのキャラクター・Eugeneが投影されていて、映像とのリンクにも目が話せない。
続いて、子鬼たちが画面に現れ、“Bon Dance”へ。線香花火がチカチカと映し出され、百鬼夜行的な世界が繰り広げられていく。ermhoiの歌声は、原曲のころんとした印象よりもスタッカートをきかせていて力強い。石若&勢喜のタイトなWドラムや、メロディを裏から支えるサックスがアレンジに厚みをもたらしている。
そして、のっぺらぼうの顔が膨張したようなエフェクトからの、“Veil”。エレクトロな世界観をどうライヴで再現するのかが気になっていたが、手数多めの繊細なWドラムから、MELRAWの血通ったコーラスなど、ずいぶん肉体的な演奏だったので驚いた。“WWW”(音源未発表曲)では、のっぺらぼうの顔に歌舞伎の隈取りのような模様が出演。やがて、曲に合わせて口を動かしだしたのもクールな演出だった。ラップとジャズが交差するような、楽曲のダイナミックなパワーに酔いしれた。
“Stay!!!”は、原曲のCharaに代わりermhoiがメインボーカルに。曲の世界観はそのままに、完全に彼女のものにしていた。“Philip”に関しても、森がメインを担い、常田のヴォコーダーヴォイスと掛け合うように歌い上げていた。そしてKing Gnuの“Slumberland”、ミレパにおいてはパリッとしたサックスとともに鳴らされ、この夜をいっそうムーディに演出していた。“Trepanation”では、PVのあのキャラクターが映し出され、ワン・ツーとカウントが入り、楽曲へ。映像とリンクする生演奏の息遣いを感じながら、原曲とはまた違う儚げなアレンジが印象的だった。
途中、ゲストでKing Gnuの井口理が登場し、“Fireworks and Flying Sparks”へ。井口の神秘的なファルセットと、常田のハスキーボイスのコントラストに、魑魅魍魎的な映像も相まって、よりカオティックな深みへとズブズブハマっていく。そして極めつけは、やっぱり“FAMILIA”だろうか。暗闇の中に一筋のスポットライトが井口を照らし出す。その歌声は暗闇を手探りで進むような、不安さと切実な祈り。ホワイトステージらしくビリビリとした地鳴りがすると、あの殺気迫る常田との掛け合いが始まっていった。生と死と愛。壮大なサウンドスケープでもって表現されたレクイエムに、震えが止まらなかった。
そして、軽快なドラミングが響き渡ると、モニュメントの中央に「竜とそばかすの姫」のBelleが登場し、そのまま同曲のメインテーマ“U”へ。映画の世界観と現実とがうまく組み合わさった演出に、会場は大いに盛り上がった。やがてサイバーパンクな映像と、ermhoiの退屈を吐き出すような歌い方が退廃的な“2992”、最後は「Thank you FUJIROCK!」と、“call me”(音源未発表曲)とともにエンディングムービーへ突入し、幕は閉じた。
MCなし、怒涛の18曲。蓋を開けてみるととってもゴージャス。毎曲スペシャルゲストが満載のヒップホップグループのようなスタイルで、次々と新しい要素が投げかけられる、かなり濃密な1時間半だった。1秒たりとも目が話せないクリエイティビティの集合知を浴びた観客たちは、ただただ圧倒された様子だった。あらゆるセンスと想像力を身に纏い、この世のものからあの世のものまで味方に付けて練り歩く。そんなmillennium paradeの百鬼夜行に、怖がらずについていくことができるだろうか。
[写真:全8枚]