LIVE REPORTWHITE STAGE8/20 FRI
KID FRESINO(BAND SET)
どこまでもスリリングな「個」の協奏
フィーチャリングやTV出演で注目されていたタイミングだけあって、ホワイトステージに集ったオーディエンスは早くから期待感を滲ませながらサウンドチェックを眺めていた。オーバーサイズのシャツに身を包み、KID FRESINOと5人のバンドメンバーの登場だ。
2019年の深夜のレッドマーキーに続いての出演となったKID FRESINO(BAND SET)は、早速最新作『20, Stop it』から“Shit, V12”を叩き込む。待ってましたとばかりに前のめりなラップと切れのあるサウンドに、僕らは早速釘付けに。そして続く“Coincidence”の前に、サポートメンバーの小林うてな(Steelpan / Traktor / Cho)が出演辞退となったことを告げるKID FRESINO(彼がぜひ読んでほしいと語った彼女のメッセージも併記しておこう)。スティールパンが映える曲だけに残念ではあったが、それでもソリッドなバンドサウンドがホワイトステージに刻まれていく様は圧巻だ。
“come get me”、“Winston”と立て続けに披露。DJセットでは何度か観ていたKID FRESINOのステージだが、バンドセットだとこうも違うのか。中村佳穂や君島大空と活動をともにする西田修大(Gt)が伸びやかなフレーズを奏でれば、くるりのステージを終えこの後millennium paradeのステージも控える石若駿(Dr)は粒の光るダイナミックな打音を刻み、精鋭たちが集ったバンドセットはひとりひとりの音がこれでもかと際立っている。その中でもキレと独特の癖があるKID FRESINOのラップの存在感はブチ抜けていて、相互に作用しながらドライヴしていくスリリングなバンドセッションにわくわくしっぱなしだ。
フジロックならではのスペシャルな共演も見られたKID FRESINOのステージ。“Girl got a cute face” ではCampanellaがフリーキーなスタイルで会場を沸かし、“Lungs”では赤いシャツを着たOtagiriが異様な存在感を放つ。KID FRESINOとも違うスタイルのラップを繰り広げる様子はバチバチのバトルのようでもありながら、盟友との温かい信頼関係を感じさせた。極めつけは、たまたま会場で見かけたから急遽連れてきたというDaichi Yamamotoとともに、クラブの情感を歌う“Let it be”。僕には彼のホームグラウンド京都METROの光景が浮かんだが、軽いフットワークで遠く離れた地の想いを連れてくるのも実にフジロックらしい共演だろう。掛け合うKID FRESINOのなんと楽しそうなことか!
後半にはキラーチューン“cherry pie”や、トラックから流れるNENE(ゆるふわギャング)のラップが映える“Arcades”など、暮れゆく太陽と吹き抜ける風を感じながら夏の情感を鮮やかに彩っていく。トラックとバンドの生音の組み合わせがなんともいい塩梅だ。そして“lea seydoux”と“Run”は息をつく暇もない圧巻のバンドセッション!思わず「お前らはtoeか!fox capture planか!」なんて言葉が頭に浮かび、感嘆を通り越して笑ってしまったではないか。“youth”でもスモークがライトに照らされてバンドが神々しく浮かび上がる様子に、ただただ圧倒されるオーディエンス。
“Rondo”、“Retarded”のパーティーの幸福感から一転、 “ALIEN”ではアカペラで誰もが持つ孤独感や疎外感を歌うKID FRESINO。それでも最後の“Easy Breezy”には仲間への愛とリスペクトが溢れていて思わずうるっとしてしまう。そして、普段の呼び名でメンバーを紹介する中には小林うてなも。このバンドは彼女の魂もしっかりここにつれてきた。KID FRESINOとバンドメンバー、客演の盟友たち。それぞれの「個」を尊重しながらどこまでもスリリングに響き合う、協奏のかたちがここにはあったのだ。
[写真:全10枚]