LIVE REPORTRED MARQUEE8/22 SUN
君島大空 合奏形態
エクストリームと清さは両立する
フジロックに出演することがそんなに偉いのかはわからないが、言葉にする前にすげえ!と思ったニューカマーには苗場で再会したいと自動的に脳が反応するみたいだ。君島大空。何を言っても言った端から嘘になるような、それを瞬時に歌声やギターの爪弾きの加減でなんとか生まれたての「それ」を人に聴かせようとする姿を2018年に渋谷のライブハウスで目撃し、2019年には「すごすぎるメンバー」によるROOKIE A GO-GO出演。SIA後の牛歩に巻き込まれてその時のライブを見ることは叶わなかったが、その分、今年の出演は心底嬉しかった。
レッドの一番手は10時半開演だが、すでに大勢の人が列を作って開場を待っていた。整然と入場していく。君島自身への支持はもちろん、合奏形態のメンバーは西田修大(g)、新井和輝(b)、石若駿(drs)という、いま、日本で最も面白くもユニークなミュージシャンたち。石若は初日のくるり、KID FRESINO、millennium paradeのトリプルヘッダーだったし、新井もmillennium parade、King Gnu、西田はKID FRESINOで弾いている。なんだかこのコレクティヴのセンスは今年のフジロックの通奏低音になっていまいか。
入念なサウンドチェックを済ませ、本番に臨んだ君島はお馴染みの白シャツ。客席側から右手に君島が位置し、順番に石若、新井、西田というセンターを囲むような陣形で、呼吸を合わせていく。西田がシンセで不穏な空気を放ち、1曲目はハードな“遠視のコントラルト”。君島も西田もハードに攻めていく。エクストリームさと清さは君島の音楽では当たり前に同居する。その感覚を求めて重奏形態のライブを凝視しているようなところもある。続けて“散瞳”を演奏し、エンディングを確かめた上でものすごく長い拍手が起きた。みんな待っていたのだ。
君島がエレアコに持ち替えての“傘の中の手”では、メンバー各々が異なる拍子を叩いたり、リフを刻んだりしながら曲の世界は混ざり合うという高度なアレンジに興奮し、石若の静かな静かなリムショットに意識が自ずと集中する“きさらぎ”。知らない街で迷子になった(なろうとしている)二人のロマンチックで、でも少し戸惑ってもいるような歌詞が繊細で、刻一刻と変化する演奏は一編の映画を見るような気持ちの満足度をくれる。そのハイライトは“午後の反射光”〜“銃口”でピークを迎えた印象だ。特に“午後の反射光”の高音はファルセットじゃなく、力強い声。何か一つ突き抜けたいまの君島を見た感覚だ。
振り返ると後ろまで人が入り、しかも集中力を切らさない空間ができている。君島はさらっと「来てくれてありがとう」、そしてメンバー紹介をしてラストの“光暈(halo)”へ。ここでも楽器がほぼ身体化したメンバーはこの曲の今日のあり方を演奏しながら試行する。演奏はなぞるものではなく、その都度、更新されるものだということ。そこに賭けている4人の「生みたて」音楽。
メンバーがステージを去ってもその場からなかなか離れない人が多い、そんな濃厚な40分だった。
[写真:全10枚]