FUJIROCK EXPRESS '21

LIVE REPORTPYRAMID GARDEN8/22 SUN

曽我部恵一

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Photo by MITCH IKEDA Text by 阿部仁知

Posted on 2021.8.23 12:48

歌は時を越え今この瞬間のために鳴り響く

なんとかたどり着いたフジロック最終日。ピラミッドガーデンで過ごす人々にも疲れが見て取れる。ただでさえ楽ではないフジロックの日々に加えて、常時マスク着用で常に気を張って過ごしているのだから、それも無理はない。それでもみんな彼を待っている。2日目のレッドマーキー、サニーデイ・サービスで素晴らしいパフォーマンスを披露した曽我部恵一が、弾き語りで登場だ。

出演するにせよしないにせよ、ミュージシャンが自身のスタンスを示すことを半ば迫られたような今年のフジロックで、僕が特に気になっていたのは「曽我部恵一は何を思うんだろう」ということ。でも彼はただ淡々と弾き語るだけだった。考えてみれば当たり前だ。いつだって歌ひとつで、今この瞬間をクリティカルに描き出してきたのが曽我部恵一なのだから。

ざっくりしたストロークでアコギを鳴らす“キラキラ!”で幸福を紡いでいく中でも、随所で声を張り上げる曽我部。ブリッジの「いつだってだれも分かっちゃいないんだ」でシャウトする様に、僕ははやくもうるっとしてしまう。どこか「自分だけは特別」という感覚が拭い去れない自身への自嘲や疎外感。集った人々もみな椅子に座りながら、じっくりと彼の歌に耳を澄ませている。

今月50歳になるという彼の生まれた年のことを歌った“サマー’71”に、柔らかく指弾く“少年の日の夏”。そこには在りし日へのノスタルジーが感じられたが、今僕らが思う「在りし日」とはコロナ禍以前のことに他ならないだろう。当たり前に思っていたものが失われ、フジロックだって従来のかたちではない。そんな僕らの思い出の中の光景と彼の少年時代の情感が、歌を通して緩やかに交わりあっていく。

長女が生まれた時に作った曲という“おとなになんかならないで”では、昨日のサニーデイ・サービスでTwitterトレンド1位になったスクリーンショットを20歳になった彼女に送り、「よかったじゃん」と返ってくるなんて微笑ましいエピソードを交えながら、おおらかな表情で言葉を紡いでいく。大人になるにつれて僕らが失ってしまった無垢な心。ピラミッドガーデンの聴衆たちは軽く身体を揺らしながら聞き入っている。

いつも歌ったら自分がパワーをもらえるという“バカばっかり”で一転して荒々しく弾き語る曽我部恵一は、あらゆる続柄や肩書の名を挙げ、みんなバカばっかりと叫ぶ。だが真っ先にバカと歌う対象は「僕」。その分断の危うさに胸を痛めながらも、自分を守るためにほとんど無意識に敵/味方を区別しながら今日も生きている僕のことだ。ハッとさせられてしまう。それでも人は誰しも間違える。画一的な正しさに振り回されてしまうような昨今の空気の中で、曽我部の歌はなんと芯を射抜くことだろうか。

などと評論めいたことを書いているが、曽我部恵一は明快な主張やメッセージなど何も発していない。僕が勝手に感じ取っているだけだ。しかし彼の歌には聴く人の想像を喚起する余白と強度があり、ここに集った人の数だけそれぞれ感じることがあったはずだ。目をつぶって浸ったり手でリズムを刻んでみたり、みんな何を思っているんだろうか。

そんなピラミッドガーデンで曽我部が繰り出したのが“満員電車は走る”。「もう一日だって待てやしないんだ」「あなたの心が壊れてしまいそうなとき 音楽は流れているかい?」「誰も正しくはない 誰も間違っていない」。聞き入っているうちに僕は涙がとまらなくなってしまった。何度聴いたかわからない彼がずっと歌ってきた歌だ。この状況のために用意した言葉などではない。でも素晴らしい歌はいつだって時代を越えて今この瞬間のために鳴り響いているんだ。

日が照ってきたピラミッドガーデンで「ずっと恋をしていましょう!」と、“シモーヌ”、“LOVE-SICK”で曽我部は高らかに愛を歌う。「みんな残念ながら恋の病の陽性です」と投げかける彼だが、この状況でわざわざここに集まった僕らのフジロックへの気持ちもそうだろう。愛ゆえに見失ってしまうことへの自覚も滲ませながら、それでも「EVERYTHING’S GONNA BE ALL RIGHT」と繰り返す曽我部恵一。指使いや声色の機微、表情ひとつとってもすべてが生き生きとしている。

「今までで一番いい日になるでしょう」と“春の嵐”を朗らかに爪弾き、最後は遠く帰る場所を想う“おかえり”。何も特別なことはなく、いつものように歌いギターを弾いた曽我部恵一は、最後にそっと「おかえり」とつぶやいた。

[写真:全10枚]

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8/22 SUNPYRAMID GARDEN