キング・オブ・マッチョ・ゴス降臨
さあ、久しぶりにお会いするシスターズ…えっ、マーキー、人、少なっ…!ちょっとちょっと、キング・オブ・ゴスですよ?と、そこへ登場した人影。スモークが凄すぎて顔が良く見えないんだけど…白い霧の中にぼんやり浮かびあがる、スキンヘッドのマッチョな男の面影…アンタ誰?と思ったらそれがアンドリュー・エルドリッチだった!!!衝撃である。お約束だった黒ずくめファッションも、最近はラフな服装でステージに立っているのは知ってはいたけど、蛍光色のカットソーにカーゴパンツ、やっぱり眼の前にするとビビる。
80年代、生意気なクソガキだった自分は、昼は学校で給食を食べ、放課後はアート・オブノイズ、トーキングヘッズに酔いしれ、「UKならZTT、日本ならアルファ」など赤面発言を繰り返し、日本で一番エライのはコム・デ・ギャルソンと信じて疑わず、黒装束に無条件降伏だった。そんな馬鹿子同様の早く大人になりたい子供達はあの頃、巷に溢れていた。とはいえ、そんなクソガキ達の直系が、その後のバンドブームやらビジュアル系やらに繋がってゆくのだから侮れないものである。かくして馬鹿子も同時代にもれなく「フロッドランド」でシスターズと出会い、その荘厳な絵巻モノのような世界観に衝撃を受けた。しかしながらエルドリッチの偏屈さが原因でバンドは幾度も活動を停止、来日公演もキャンセル。同時代にはキャッチーでルックスもイケてるバンドが多数登場し、子供たちは夢中になった。そして残念ながらその後シスターズは馬鹿子にとってはすっかり過去の人になってしまった。…以来、うん十年ぶりに聞くシスターズである。淡々としたリズムと陰鬱ヴォーカルが紡ぐ世界観は変わらないが、見た目どおりのマッチョ・ゴスにアップロードされているような…生々しさが滲み出ている。エルドリッチの声も、更に低くドスコイ重く、以前よりも凄味を増してパワフルになっているのが分かる。願わくば、マイク音量をもう少し上げてほしかったが。
しかし、スタンスは全く変わってない。シスターズはロックだった、昔から。音楽誌からゴシック・ロックと形容されることも多かった。しかし、エルドリッチ本人はゴスと呼ばれることすら嫌って伏せ字にするほど偏屈な頑固おやじだった…だからこそ、悪魔崇拝だ何だとネタに頼っていた他のバンドとは一線を画し、今でも異彩を放つ存在。
そんな下らない分析も「ドミニオン」「ディス・コロージョン」を聞いた瞬間にズワーッとタイムマシーンに乗ったような気分でふっとぶ。名曲はいつまでも色あせない。当時、MTVでしか見なかった人が -風貌が一変して- 眼の前で演奏しているのは不思議な気分。会場では同年代とお見受けする方達も多かったので、同じ思いを持たれた人は多かったのではないか。とは言え、スゴイ量のスモークで、エルドリッチの蛍光色のTシャツしか見えず、時折見えても、相変わらずサングラス着用で素顔は見えない。そういえば、昔はアヴィエーターを愛用していたような。同様にスモークで見えなかったのだけど、ドクター・アヴァランシュも健在でいらしたのかしら?
ふと後を見ると、人の少ないマーキーからスモークが山肌から滑り落ちる雲海のように外に向かってダダもれて…一抹の寂しさ。今年で結成30周年だというシスターズ。(既にエルドリッチ1人しかいない)もうずっとオリジナルアルバムを発表していない。そんなバンドをマーキーのトリに持ってくるのもフジロックらしいけど…まあ気が向いたらアルバム出してほしいな、エルドリッチおじさん。
写真:熊沢泉 (Supported by Nikon)
文:mimi