やんちゃなベテラン
アマドゥ・エ・マリアムとマヌ・チャオと共に、オブリント・パスが数百人規模のスペースにブッキングされている…こららのアーティストを立て続けに見られるってことは、ヨーロッパではまず考えられない事だそうで、バンダ・バソッティやフェルミン・ムグルサといった百戦錬磨の猛者たちが、声を揃えて「フジロックはヤバい!」と言っていたそうだ。
小さなクラブスペースであるクリスタル・パレスでは、マヌ・チャオ・ラ・ヴェントゥーラの余韻が残っている状態。ドン・レッツがいくらかクールダウンさせたとしても、「伝説」の後では焼け石に水だ。そんな状況の中で出てくるのは、ほとんどのフジロッカーにとっては所見であろうオブリント・パス。それでも、彼らは20年近い歴史を持った、スペイン語圏ではつとに知られたバンドだ。なにせ、FCバルセロナが優勝を決めると、その本拠地であるカンプ・ノウでのライヴを行うほどにビッグなアーティストなのだから。
登場は堂々としたものだった一方で、ひとたび音を発すれば、若手にもひけをとらないエネルギーが溢れ出てくる。音のみならず、動きや煽りで、再びのスイッチを入れられたオーディエンスも多かったはずだ。それぞれの個性がつきぬけて、まるでまとまってないような、好き勝手に弾ける大所帯バンドは、一瞬にして狂乱の渦を巻き起こした。
後列には、要所でスクラッチを差し込んでくるDJ、トランペットとトロンボーンからなるホーン隊を揃え、正確なリズムを刻むドラムがある。前列にはパーカス、ギター、キーボードが横並びで、その3人が代わるがわるMCをとる。ベーシストの動きはレッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーを思わせるほどの躍動で、イッちゃってる。時折チャルメラのような響きを発するドルサイナ(バレンシアの伝統楽器)と、トリキティシャ(バスクのボタン式アコーディオン)が彩りを添えて、裏打ちを多用しているにも関わらず、そのリズムの隙間をびっしりと音で埋め尽くしているかのようだ。
中盤では、ラテン圏のアーティストがよくやる行為なのだが、音を絞り、オーディエンスをしゃがませ、再び音を炸裂させるタイミングで全員を飛び上がらせる。これを経験してしまうと、有無を言わさぬ連帯が生まれて、まんまと取り込まれてしまうのだ。
外の雨から避難するつもりで、POWのテントへと逃げ込んだ者もいるはずだ。訳がわからないけれども楽しい、そんなアーティストと出会えるのもフェスティヴァルの楽しみだ。このライヴを見た人、バルセロナあたりに行くことがあれば、「数百人規模のスペースでオブリント・パスを見た」と言えば、一瞬にして仲良くなれることだろう。それほどに、影響力のあるバンドなのだ。
文・西野太生輝
写真:Julen Esteban-Pretel