問答無用のサイケデリック・ロック
真っ昼間のレッドマーキーでも、幻惑のサイケデリック・ロックを奏でて喝采を浴びたTHE BLACK ANGELSが今度は深夜のクリスタル・パレスを酔わしにかかる。結論からいうならば、それはそれは”サイケとはこの事を言うんだぜ!”というぐらいのステージで、ゆるやかなトリップ感を味あわせてくれるものだった。しかし、THE MUSICの大事な大事なお別れ会を見ないで、こんなサイケなものを見てクラクラしてしまっていいんですかね(笑)
そのTHE BLACK ANGELSは、現代から60~70年代まで逆進していったレトロでサイケデリックな曲調が代名詞となっている。深いリヴァーヴのかかったギターに、ヨレヨレのヴォーカルが泳ぎ、聴き手を霧がかった沼地の中へと引き摺りこむ。バンド名はヴェルヴェット・アンダーグラウンドの曲名から拝借したとのことだが、彼等の音に触れれば往年の名バンドの名前が多々よぎることだろうと思う。なんといっても13th Floor Elevatorsのロッキー・エリクソンもお気に入りなのだ。説得力あるでしょ。
ライヴでもゆるやかな音の連なりによる眩惑的なサウンドスケープに五感が苛まれる。各楽器が繊細に絡み合い、揺らぎのある音像を紡ぎ、それがやがてはディープな世界へと変わっていく。幕開けとなった「Bad Vibrations」からサイケデリックなサウンドが拡散。ズブズブと意識をかっさらう。耳に入るたびに往年のバンドの名前が浮かんでくる人は多いかも。客席を見回してもその音による心地よい刺激にノせられて会場がゆらゆらと揺れていた。
ただ、鼓膜に圧し掛かる予想以上の爆音が衝撃的で、グルーヴも骨太い。特に紅一点のドラマーがソリッドで強靭なドラムを叩いていて、曲線的な音使いが目立つ中に直線的な躍動感を加えていたのが印象的。また、キーボードやマラカス、タンバリン、小さいタムなどを楽曲に合わせて導入していて、音数を増やしながら妖しさにさらに拍車をかける。問答無用のサイケデリック・ロック、ここにあり。
最新作である『Phosphene Dream』を中心に据えておよそ1時間続いたライヴ。時間が経つにつれて視界が歪む霧がかったサウンドはさらに深みを増し、ニュー・サイケ・シーンの旗手としての力を存分に見せつけた。十分すぎるぐらいに酔えたライヴに遭遇できた事に感謝。
文:伊藤卓也
写真:中島たくみ