フジロックと言えば、ゴム長にゴアテックのレイン・ジャケットがデフォルトというイメージが定着していたのだが、今年はそれが見事に裏切られることになる。前夜祭から全てが終わった月曜日朝まで、雨が降ることはなかった。苗場の夏を演出していたのは、文字通り、灼熱の太陽。実は、最終日夕方から雨模様になるというスポット予報も出ていたんだが、それもハズレている。少しばかりの雨が降ったという話も伝わっているんだが、それに気づいた人はほとんどいなかったようだ。
とはいっても、会場を後にする人たちがバスへの長い行列を作っていた月曜日の昼過ぎからだろうか、夕立のような雨が断続的に降り続き、撤収作業を続ける人たちに襲いかかっていた。そんななか、捨て去られたテントを車の荷台に山盛りにして清掃作業を続けている人たちを目撃しているのだが、過去最大の動員を記録したという今年のフジロックの残骸をこのとき、目の当たりにしたような気がする。
終戦直後とさえ比較されていた311から、わずか1年数ヶ月。「自粛ムード」なんて言葉までが幅を利かせていたあの頃がまるで嘘のようにフジロックが盛り上がりを見せたといっていいだろう。が、忘れてはいけないことがある。東日本大震災が数えきれない命を奪い、福島第一原発事故による放射能汚染が今も多くの人々の生活やふるさとを根こそぎ奪い去っていること。それを思い出さずにはいられない。
なにやら重たい気持ちで迎えざるを得なかったのが昨年の前夜祭。あのとき、誰もがそのショックのまっただ中に放り込まれていたんじゃないだろうか。悲しみと苦しみや怒りといったさまざまな感情が渦巻く時期に開催されたのが去年のフジロック。だからこそ、あのとき、「生きていること」を謳歌すべきだし、「本当に生きる」意味を感じることのできる祭りにしなければいけないと、多くの人たちが自らに言い聞かせていたように思う。
あれから1年、今回のフジロックで気づいたのは、ここに関わっている人たちにかつてなかったほど明確な「意志」が生まれていることだった。昨年復活したアトミック・カフェは今年もジプシーアバロンで脱原発や循環型エネルギーの重要性をアピール。ミュージシャンや関係者を含めた多くのフジロッカーが日本中に広がる原発再稼働への抗議運動に出没しているという話も伝わっている。また、我々のミーティング・ポイントとなったラウンジ(旧ネットカフェ)にブースを設けたのは東北ライブハウス大作戦。自らの手で音楽の『場』を東北に作ろうという動きが確実に結果を生み出しているのだ。その隣に姿を見せていたのはLet’s dance署名推進委員会。踊りを法律で規制するという理不尽な「風営法」改正を求めた彼らが開催期間中に3033筆の署名を集めたと聞いている。
いわば、多くの人たちが世界や社会に対して積極的に向かい合うことで現状を変えようとしているということなんだろう。そんな動きを受けて、今年のフジロック・エキスプレスにささやかなメッセージを加えることにした。
「未来は描かれてはいない。描くのは私たち」
という言葉なんだが、これは今もフジロックに大きな影響を及ぼし続けている故ジョー・ストラマーの記録映画「The future is unwritten」のタイトルからいただいている。
そこに直接書かれてはいないが、この言葉が意味するのは「私たちひとりひとりが未来を作る」ということ。そうやって前向きに動き出している人たちや彼らに協力した人たちのみならず、わざわざ苗場にまで足を伸ばしてフジロックという祭りを体験しにきた人たちとそんな気持ちを共有したかった。
これまで幾度も繰り返してきたジョー・ストラマーの言葉をもう一度思い浮かべたい。簡単にいえば、「フェスティヴァルとは生きている意味を再確認する場」。そんなところから「未来を描く」エネルギーが生まれるんだろう。その主役はこの祭りにやってきたひとりひとり。そんな思いを見事に示してくれたバンドのひとつが最終日のオレンジコートで最後に姿を見せた渋さ知らズオーケストラだった。
「フジロックを作っているのはあなたたちです」
彼らが数千人のオーディエンスを前に演奏していたとき、ねじり鉢巻に赤ふんどし、背中に真っ赤な文字で大きく「玄界灘」と書かれたハッピ姿でおなじみのボーカリスト&役者の渡部真一が、そんな言葉を言い放っていた。
残念ながら、今年はグリーン・ステージでの「クロージング・アクト」が姿を消し、祭りの終わりを祝福するパーティのような大騒ぎも、恒例となっていたオーディエンスの記念撮影も実現してはいない。が、なにやらそんな雰囲気を醸し出していたのが最も奥地にあるこのステージだったように思える。
聞くところによると、総合プロデューサーの日高氏はフェスティヴァルにやってくるお客さんたちへのHospitality(おもてなし)予算を例年以上に充実させようとしたらしい。コンサートにしか興味のない方々にとってみれば、それは「おまけの出し物」や「余興」なのかもしれない。が、どこかでそれこそが祭りを祭りたらしめている大きな要素ではないかと思う。
一方で、充実したラインナップに起因したんだろう、通し券のみならず、土曜と日曜のチケットも完売したとか。おかげであまりの人の数に辟易した人も、あるいは、身の危険を感じた人も多かったのではないだろうか。いずれにせよ、フジロック・エキスプレスのスタッフは可能な限りの記録を残すことを最優先に会場の隅々までを走り回っている。その結果、フジロックが抱える様々な顔をここに切り取ることができたのではないかと思う。
なお、今年のスタッフは以下の通りとなっています。
日本語版(http://www.fujirockexpress.net/12/)
写真家:北村勇祐、前田博史、中島たくみ、古川喜隆、直田亨、岡村直昭、熊沢泉、府川展也、深野輝美、森リョータ、Julen Eesteban-Pretel、近澤幸司、加藤智恵子、平川けいこ、松山舜聖、八尾武志、藤井大輔、輪千希美
ライター :本堂清佳、永田夏来、名塚麻貴、丸岡直佳、近藤英梨子、池田信之、西野太生輝、千葉原宏美、松坂愛、伊藤卓也、小田葉子、丸山亮平、ryoji、ヨシカワクニコ、小川泰明
英語版(http://www.fujirock.com/)
Phil Brasor、Nick Coldicott、Shawn Despres、David Frazier、Patrick St. Miche、Elliott Samuels、Sean Scanlan, J Muzacs, Ben Olah, Jamie Tennant
更新およびフジロッカーズ・ラウンジ
藤原大和、飯森美歌、大竹恵理子、金甫美、坂上大介、酒井大地、小幡朋子、湯澤厚士、鵜飼睦子、山岡紀子、山内志緒
ウェブデザイン・プログラム開発
三ツ石哲也、金甫美、株式会社パイロット
プロデューサー
花房浩一
未来を描くのは私たちです
文:花房浩一