星野源
ワクワクする気持ちが引っ張られる、愛に満ちたライヴに
星野 源がフジロックに出るのは、フィールド・オブ・ヘブンに登場して以来、3年ぶり。長期休養を経ての復活後としては今回が初である。しかも、本当に待ちに待ったグリーン・ステージ。と…そうやって、いろんな思いを馳せていると、出番を待っている間に、どこからともなく緊張感が湧いてきてしまった。でも、定刻の17時20分に登場した星野自身は、なぜかタオルで股をしごく、という動作を…。その姿を前に、一瞬にして緊張感がほぐれていく感覚に。いやはや、相変わらず、広いステージだろうが、聴き手との間に壁や緊迫感は作らない。むしろ、皆無にしてくれる。
チェロ、ヴァイオリン、ピアノ、ベース、ドラム、ギター、キーボード&マリンバの7名のサポート・メンバーと、星野がステージに。この日のスタートを切ったのは、“化物”だ。ギターを抱えた星野が手拍子を誘うと、すぐさま、観客が一斉に両手を前に出し、リズムを刻んでいく。次いで“ギャグ”で大いに会場を沸かせると、「改めまして星野 源です」とMCへとシフト。次々に上がる歓声を受け、「黄色い源ちゃんを聴かせてくれ」また「野太い源ちゃんを聴かせてくれ」というリクエストを。男性と女性に分かれ、みんなここぞ!とばかりに「源ちゃーん!」と声をしっかり張り上げていく。あぁ、もう愛され過ぎ!とコチラまで嬉しくなった瞬間である。
そして「フジロックは、SAKEROCKを含めると、10年以上、お世話になっていて。最初はルーキー・ア・ゴーゴーでした」という話をする星野。ソロは、今からだとちょっと想像できないけれど、2006年の苗場食堂が初である(ちなみに当時のライヴ中、二言目には「あー、帰りたい。埼玉県に帰りたい」と言っていたとか)。そう、だから、ようやくのグリーン・ステージなのである。ただ、感慨深さはあれど、源さんもグリーン・ステージなんだなぁ…と思っていた、ちょっとした寂しさとかはもう冒頭やここまでの演奏で吹き飛ぶ感じがあった。何万人がいる会場だろうと、変わらないものがある。そう信じていられる、信じさせてくれるような、観客との信頼感みたいなものが星野のライヴにはあるから。
MCの後、“夢の外へ”で楽しさ全開になり、純粋に身体を動かしたくもなれば、ワクワクするような気持ちがどんどんと引っ張られていく。そして「太陽はどこにあるかな。太陽があるうちに、この曲をやりたいんだ」と話した後は、星野の持ち曲の中ではどポップと言えるくらいポップス感のある“SUN”へ。オーディエンスは、リズムに乗りながら、星野と一緒にメロディを口ずさんでいく。もう、そこら中に歓喜が高まっていく分、実際の太陽はキチンとは見えなかったけれど、この光景自体が個人的には太陽のような温かさがあると思えるような、そんな気になってしまった。“SUN”の演奏後は「青空も見えるし、幸せです。ありがとうございます」と。でも、ふとステージから、グリーン・ステージよりさらに奥地へ行こうとしている人たちが目に入ったのか、「なんか、ふーん、みたいに通り過ぎているお前! 愛しているよ!」と、いきなりステージから遠く離れた人たちに向かって声を掛けるなんてシーンも。すると、遠くからではあるけれど、「源さーん、愛している」との声が。それにまた星野が「全員の愛しているが聞きたいと思った」と反応すると、口々に「愛してるー!」との観客の声があちこちから響き渡る。早くも本日2回目だが、やはり、愛され過ぎ!とまたもじんわりとした気持ちが入り込んでくるようだった。
「しっとりした曲をするので、カップルのみなさんはぜひSEXを始めてください。いいと思う。ここでしてもいいと思う。それで子どもができたら、源って名前を付けてね」。そんなMCを聞いた時はクスッと笑ってしまったけれど、そこから演奏された“くせのうた”、“くだらないの中に”で空気が一転。真っ直ぐに先を見据えたかと思えば、目線を右へ、そして、左へ、まるで、1人ひとりに向かっていくように歌を紡いでいく。星野自身の切り替わりの早さもそうだけど、メロディが響いた瞬間に、テンションや空気感がパッとまったく違うものに変えられる、その歌の力…。いやはや、さすがである。また、曲の中で歌われる1人を思う純度の高さに、心に染み入るって、こういうことなんだろうなぁ、ともしみじみ実感させられるようだった。
その後はまた一転し、“地獄でなぜ悪い”や“桜の森”で、さっきまでの熱量を呼び戻しながら、さらに加速させていく。星野はというと、ギターを降ろし、ハンド・マイクで、足をモニターにかけたり、ステップを踏みながらステージをぐーんと移動していく。でも曲が終わる頃には、ステージ外へ。いや、もはやお馴染みになっているが、案の定、次に姿を見せた時は布施 明に扮したニセ明として登場。このニセ明、とにかくテンションが高い! “君は薔薇より美しい”の演奏に加え、途中、松尾スズキ直伝のダンスまで披露。これがまた松尾スズキの動きに非常に近く(舞台などでよく目にする動きと非常に近いものがあった)、大爆笑であった。ただ、そのダンスに疲れたからか、ドラムで入っている伊藤大地に「ドゥクドゥンってやって。ドゥクドゥンってやったら次いけるから」と頼み込み…。そのやりとりがまたなんとも微笑ましく、さらに観客が沸きに沸く。無事に「ドゥクドゥン」で締めた後は、あっさりと「じゃあ、星野 源に戻ります」と一言。その後は、ラスト曲。「ゆっくりでいいので、みんなのヘドバンがみたい」と言い放ち、“Crazy Crazy”で締めくくる。この曲では、〈愛しいものは 雲の上さ〉と実際にすっと雲の方を指差し見上げる星野から、お手本としてか、ヘドバンまでをも見せていく。本当に最後まで様々な表情がある楽曲を見せてくれただけに、こちらも笑って、泣いて、1時間の間に相当な感情が引っぱり出される思いだった。いやぁ、もうやっぱり、最高に楽しかった! これに尽きる!