WILKO JOHNSON
ライヴに「生きる」男
黒ずくめのすらっとした立ち姿に、鋭い眼光と鬼気迫る表情、そして、血を隠すための紅いピックガードがついたテレキャスターを、マシンガンの様に構えて打ち抜くのが、ウィルコ・ジョンソンだ。一度は死を受け入れて死神とダンスを踊り、そして、決別した男の“ゴーイング・バック・ホーム”…ウィルコにとっての苗場のホーム、クリスタル・パレスへの帰還だ。
テントを埋め尽くしたオーディエンスの、「おかえり!」という言葉に迎えられたウィルコ。彼のバンドは、ブロックヘッズ時代からの盟友ノーマン・ワット・ロイと、ディラン・ハウを従えた形となっている。思えば、元気だった頃、癌が発覚した頃、サヨナラツアーに、今回の来日と、ドラマーは変われども、ずっとスリーピースの編成でライヴを続けている。大所帯やステージの飾りといった、眼に見えるようなあからさまな演出は、ウィルコの場合、野暮というもの。彼がロックンロールを鳴らすだけで、他のバンドには逆立ちしても真似のできないショウが生まれる。
せわしなく前後に移動しながらかき鳴らされるカッティング・ギターの音色は、マシンガンとなって、フロアを撃ち抜いてくる。“ロクセット”、“シー・ダズ・イット・ライト”、“バック・イン・ザ・ナイト”など、ドクター・フィールグッド時代の楽曲も、ソロもまんべんなく、生きる力とヒントをくれたオーディエンスへの還元とばかりに、必死の形相で演奏していく。
ノーマンは表情豊かに、長年にわたってウィルコを支え続ける相棒としての力を存分に発揮している。タイトなリズムを支える、ディラン・ハウも親(なんと、スティーヴ・ハウ!)ほど歳の離れたコンビに食らいついて、盛り上がりに拍車をかけていく。
前回の来日時のような、「これでバイバイだ…!」といった雰囲気はまるでない。もちろんその当時、こちら側は、「また来てくれる」と信じていたが、ウィルコ自身が死ぬ覚悟を決めていたから、見守るしかなかった。だけれども、ライヴを諦めず、ライヴで力をもらいながら、そしてライヴを見た外科医のファンの助言によって完全復活を遂げたウィルコは、死を乗り越えた男となってステージへと戻ってきた。
ライヴは、「生」であり「生きる」ということ。ウィルコを通して、言葉の重みを深く噛み締めることとなったのではないだろうか。