toe
あらゆる思いや空気感の真ん中を突っ切る
toeのライヴは、決して1つの言葉では言い表し切れないな、とホワイト・ステージに立つ彼らを見て本当にひしひしと感じさせられた。オーガニック要素のある優しさ、触れると壊れてしまいそうな繊細さ、だけど、感情と感情がぶつかり合う狂気にも似たエネルギーも合わせ持つから。表裏一体とはこういうことか、と唸らせられるのだ。
「今日のゲスト、誰だろうね。原田郁子ちゃんとかきたらいいな」なんて、ゲストを想像する観客の声がちらほら。toeと言うと、ゲスト・ヴォーカルを迎えての楽曲もある分、やはりどこかで期待をしてしまうのだろう。それこそ2007年のホワイト・ステージでは土岐麻子が、2012年のグリーン・ステージではACOが登場しているだけに。その気持ち、よく分かる、と思いながら彼らを待つ。そして、定刻の17時50分を5〜6分過ぎた頃。北米ツアー『NORTH AMERICAN TOUR 2015 』から、戻ってきたばかりの彼らがホワイト・ステージに。ギターの山嵜廣和と美濃隆章、ベースの山根敏史、ドラムの柏倉隆史のメンバー4人、円を描くようにして定位置に着いた。
まずは“Run For Word”から。厚みのあるアンサンブルを聴かせながら、4人の呼吸を徐々に合わせていき、“I dance alone”へと繋いでいく。淡々としたループ感がありながら、その中で、音を足したり、引いたり…緻密に音が重ねられていく。曲が求める音を探し出して作られているだけに、聴いているこちらとしても1音1音に意味があるように思えるし、その構築感があるがゆえに、少しの変化も聴き逃したくないと感じてしまうのである。きっと、聴く側がそういう気持ちでいるからこそ、どれだけ大きな音がホワイト・ステージに鳴り響いていようと、緊迫感とか静寂さもますます膨らんでいくのだろう。
山嵜がビールを飲みながら観客に向かって手を振ると、「山ちゃーん!」という大歓声と拍手が。さっきまでの緊張の糸がようやく切れるが、それもほんのわずか。5年半ぶりのアルバム『HEAR YOU』から“Because I Hear You”、以前の作品から“エソテリック”、“past and language”と演奏されれば、そのヒリヒリとした音の鋭さや、一切乱れないアンサンブルなどに、また意識が全力で傾く。そして、ダンサブルなビートが印象的な“1/21”へ。ここでは山嵜と美濃がアコースティック・ギターに持ち替え、またキーボードも加えての演奏(他も曲によって入る)。山嵜がアンプの後ろにいき両手をあげたり、スティックを手にして、柏倉の真横に並んでドラムを叩いたり…その場からどんどん動くと同時に、またも大歓声に包まれていく。1曲の中でも多彩な音色が共存している、という部分でも同じことが言えるけれど、あらゆる思いや空気感の真ん中を突っ切るような…決して1つにくくれない、かつ真摯な音楽を鳴らしていく。
「こんばんわー! 最近パッとしないアルバムをね、出しましたtoeと言います(笑)。たくさん集まっていただき、ありがとうございます。昨日、苗場にきたんですけどちょっと死にかけました。タイヤがバーストして、車が3車線の真ん中に止まったんです。で、後続列車がうちらの前でピタッと止まったという。色々あると思いますが、みなさんも元気で生きてください。あと、また何かの折りに観にきてくださいね。何かの折りでいいんでね」。そんな山嵜のMCで、無事でなにより…とホッとさせられたのもつかの間、すぐに“グッドバイ”へ。今回はゲスト・ヴォーカルはなしで、山嵜のヴォーカル。女性バージョンももちろんいいけれど、彼の声は非常に落ち着く。それにしても、夕方のほの暗い時刻のtoeの浸られる度と言ったら。特別合うな、とも感じられた。
ラスト曲となるのは、再び最新アルバム『HEAR YOU』からの楽曲で、“Song Silly feat. Olivia Burrell”。比較的、物憂げで内省的なサウンドと歌に、さっきまでの“グッドバイ”で一緒に口ずさんでいた人も、身体を揺らしていた人も、その場にピタリと立ちすくむ。途中、女性シンガーであるOlivia Burrellもコーラスとして参加。艶やかな声が加わり、さらに美しく、独特な妖艶さが満ちたまま、ステージを後にした。最後、ホワイト・ステージから移動する時、メンバーがいなくなったステージ1点をただ見つめて、すっと、涙を流している人も。こうだから泣けてくるんだ、とは説明がつかないのだけど、やはりtoeの音楽は琴線に触れる。そう断言できる、断言したくなるような演奏だった。