LIVE REPORTGREEN STAGE7/28 SAT
KENDRICK LAMAR
© Photo by Christopher Parsons for Top Dawg Entertainment© Text by 若林修平
Posted on 2018.7.29 02:26
「アメリカ」が認めた男を刮目せよ
今年4月、全世界に衝撃が走った。アメリカで最も権威のある賞のひとつであるピューリッツァー賞(*)の音楽部門を、ケンドリック・ラマーの『DAMN.』がジャズとクラシック以外のジャンルのアーティストとして初めて受賞したのである。その受賞理由について、ピューリッツァー賞担当者はこう語っている。「本物の黒人特有の言葉使いや文化、またリズミックなダイナミズムで統一された名曲集は、現在のアフリカ系アメリカ人の人生の複雑さを捉え、文学的な小品として影響を与える」。いちラッパーの域を超えつつある”現在”の彼のパフォーマンスをようやく日本で見ることができる。フジロックの出演でいうと2013年以来2回目だが、あの時とは彼を取り巻く環境も、彼の母国アメリカを取り巻く環境も大きく変わった。だからこそ、このタイミングで彼を観ることが重要なのだ。
夕方あたりから降り始めた雨は、ケンドリック出演の頃には強い風も伴う豪雨に変わっていた。少しピリピリとした空気の中はじまったライブは、何もかもが圧倒的だった。ケンドリックひとりしかいないステージ。ステージ両脇にバンドセットがあったものの、それを差し引いても、グリーン・ステージのステージは広い。体格的に決して大きいとは言えないケンドリックが自身のラップのみで勝負するのは、いくらケンドリックでも厳しいと考えるのが普通だろう。しかし、彼はそのラップと圧倒的な存在感で、そんなハードルを軽くぶち壊してしまったのだ。その勢いを受け取める僕らオーディエンスはただただ圧倒されるしかなかった。
そんな雰囲気をさらに助長したのが、ライブのオープニングと2回のインタールードに流された『カンフー・ケニー物語』と、その直後にステージ両側に備えられた縦長のスクリーンに繰り返し映される「Ain’t nobody prayin’ for me(俺のために祈ってくれる人は誰もいない)」という絶望にも似た言葉だった。”カンフー・ケニー”という「緩和」の後に、”俺のために〜”という「緊張」を何度もぶち込むことで、生まれかけていた”楽しい”という感覚を分断する。この「緊張(パフォーマンス、言葉)」と「緩和(カンフー・ケニー)」の繰り返しが、さらなる緊張感を生み、ケンドリックのラップとパフォーマンスに説得力を持たせていた。
バック・スクリーン全面に映し出されたアメリカ国旗を背にパフォーマンスした”XXX.”(今年のグラミー賞授賞式パフォーマンスの再現となった)。抑圧社会のネガティヴさを払拭するぐらいのパワーを生み出す”King Kunta”、言わずもがな”Black Lives Matter”のアンセムとなった”Alright”。アメリカでのツアーでは”Alright”に次ぐアンセムの”HUMBLE.”。さらには、オーディンスにスマホライトを掲げさせ、グリーン・ステージ全体に光の海を作りあげた”All The Stars (with SZA)”はこの曲のミュージック・ビデオと重なり本当に美しかった。
そこにはケンドリックの「どんな厳しい立場にあっても、自分を信じ、誠実に生きよう。俺たちは大丈夫だ。俺たちなら大丈夫だ。」というメッセージが込められている。それらは、一見黒人のみに向けてのメッセージのようにも見えるが、自分の立場に置き換えてみれば、きっと心に響くはずだ。
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ケンドリックが生まれ育った、アメリカいち危険な地域と言われるカリフォルニア州・コンプトン。そこは、幸せだった時間も一瞬のうちに地獄のような時間に変わってしまう厳しい地域でもある。警察官が不条理な理由で黒人住民に暴行を働き、同じ黒人同士でドラッグ・女性・酒などに関する些細な理由で争い合う。誰が味方で誰が敵なのか、自分は誰で自分は正義なのか悪なのか、存在意義はあるのか。そんな風に自分や周りを見失ってしまう場所。そんな場所で、ケンドリック・ラマーことケンドリック・ラマー・ダックワースは育った。コンプトンの、そしてアメリカの”事実”をラップし続けることで、彼は自分を見出し、今の地位を築き上げた。今日、グリーン・ステージで彼が語っていた言葉は全て”事実”である。そのことを最後に付け足しておきたいと思う。
<セットリスト(ライターメモ)>
Kung-Fu Kenny Part I (intro)
DNA.
ELEMENT.
YAH. (instrumental)
King Kunta
Big Shot (Kendrick Lamar & Travis Scott cover)
goosebumps (Travis Scott cover)
Collard Greens (ScHoolboy Q cover)
Swimming Pools (Drank)
Backseat Freestyle
LOYALTY. ft. RIHANNA
Money Trees
Kung-Fu Kenny Part II (interlude)
XXX. ft. U2
m.A.A.d city
LOVE. ft. Zacari
Bitch, Don’t Kill My Vibe
Alright
Kung-Fu Kenny Part III (interlude)
HUMBLE.
All The Stars (with SZA)
(*)ジャーナリストであり新聞記者でもあった、ジョセフ・ピューリッツァーの遺志に基づき毎年ジャーナリズム、文学、音楽、戯曲など各分野で業績のあった人物に与えられる、アメリカで最も権威のある賞のひとつ。
[写真:全4枚]
VOICES
Kendrick LamarラストにAll the Starsやってくれた😭#フジロック pic.twitter.com/GksJ1bHW1Z
— Araki ryota (@pe__shuffle) 2018年7月28日遂にKendrick Lamarフジロックに降臨。圧倒的すぎる。#フジロック pic.twitter.com/avUB6FMWID
— Araki ryota (@pe__shuffle) 2018年7月28日Kendrick Lamarがフジロック。初見だったけどリリック覚えて前ブロックへ。演出も凝ってるという訳でもないんだけど、デカイステージにKendrick1人現れた時の迫力。オーラ。引き込まれた。残念だけどシンガロングは全然なかった。悔しいね。でもKendrickは最高。#kendricklamar #フジロック pic.twitter.com/4TiYhfmNBt
— しばさし (@koheidiot) 2018年7月28日Kendrick Lamar昨日はリミックスみたいな繋ぎが何個かあったけど、XXX.→m.a.a.d cityは一番ぶち上がった#ケンドリックラマー #フジロック #fujirock #fujirock2018 pic.twitter.com/aXl7rQHwZ3
— オブオ (@manwhoaddicted) 2018年7月28日Kendrick Lamarすごすぎて放心状態。。#fujirock pic.twitter.com/CF3io9yOIa
— Ridgeback (@Ridgeback_inu) 2018年7月28日