LIVE REPORTRED MARQUEE7/29 SUN
serpentwithfeet
どこまでも神聖でエレガントな空間
サーペントウィズフィートことジョシア・ワイズの存在を知ったのはくるりの岸田繁の2016年のツイートだった。“blisters”のエレクトロにクラシックの要素が混ざった旋律はもちろん、その頃はまだクィアというワードを知らなかったものの、女性以上にエレガンスや美にこだわりがありそうな強烈なキャラクターにも惹かれた。その後、程なくビョークの“Bllising Me”のリミックスにボーカルとしフィーチャーされたあたりから認知を広げ、今年6月に待望のデビュー・アルバム『soil』をリリース。共同プロデュースにアデルやU2を手がける売れっ子ポール・エプワースを迎えて、サウンドクラウド上にアップされていた頃の曲より随分ポピュラーな印象にはなった。しかし、その歌声は無二だ。
背景には顔が明確ではないが、夫婦に見える絵画がずっと映し出されてる。そこにすっと、迷彩柄をフリルのようにも見えるデザインに消化したセットアップと、キャップ、白いソックスに赤いローファー、手には赤いタッセルのようなものを持って登場。彼ひとりきりのステージだ。1曲目はアルバム『soil』同様、“whisper”。インディR&Bともオペラとも取れるボーカリゼーションや、モデルのような振る舞いがエレガントだ。ハンドマイクで歌う時は、ローの効いたトラップにも似たトラックだが、ピアノのナンバーはピアノのみの弾き語りで、メリハリをつける。
ピアノ曲はクラシック素人なりの感覚だが、ドビュッシーに教会音楽的な旋律が加わった感じだろうか。バッハやヘンデルなどのバロック調ではない、温かみのある神聖さ。ミニマルなピアノの上を低音からファルセットまで自在に歌う姿に、聖歌隊で培われた彼のバックボーンが見て取れる。コブシ回しはR&Bのそれだが、澄んだ歌声だけにうますぎる人の嫌味な感じがない。ピアノの弾き語りはずっと聴いていたいほど、フジロック3日目も終盤という、疲れを忘れさせてくれた。静かに家で音楽を聴くとか、イヤホンで音楽に没頭している時のようなパーソナルな空間が、ライブ、しかもフェスなのに実感できたからだ。
ブリープ音とヘヴィなビートの上を囁きから、エモーショナルな歌まで声の表現力の豊かさでさらにフロアを沸かせた“mourning song”は、ビョークの音楽性に似たものも。そしてラストは再びピアノに向かい、不穏に動くコード進行がどこかレディオヘッドの“Pyramid Song”が一瞬頭をよぎった“bless ur heart”をピアノの弾き語りで披露。安易な表現に聞こえるかもしれないが、それは祈りだ。徹頭徹尾、美意識の塊のような彼は、覚えたての日本語も「オゲンキデスカ?」というワードを選んでいた。彼のキャラクターを知る人が教えたのか、彼自身が見つけたのかはわからない。でも、あまりにも似合っていて、それも含めてトータルにサーペントウィズフィートの世界がすっかりレッドマーキーを染め上げていた。
[写真:全9枚]