LIVE REPORT - WHITE STAGE 7/27 SUN
HAIM
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ハイヴスの熱量そのままに向かったホワイト・ステージ。開演までまだかなり時間があるというのに、しかも彼女たちと同じくらい好きな人も多いであろうヘッドライナーのヴァンパイア・ウィークエンド(なにせ18年にはダニエルがゲスト出演しているのだから!)が真裏でやってるというのに、前方には既にかなり多くの人が詰めかけている。「Haim show is about to start」と表示される頃には、どんどん増えてきて、PA前あたりでもパンパンに。この期待感。当時から飛躍的に存在感を増したハイムが、12年ぶりにフジロックに帰ってきた。
「It felt right」のところで叫ぶために今年のフジロックに来た人も多いであろう冒頭“The Wire”では、 ダニエル・ハイム(Vo / Gt / Dr)、 アラナ・ハイム(Vo / Gt / Key / Per)、エスティ・ハイム(Vo / Ba)がヴォーカルを歌い継ぎ、その度にHey!が大きくなっていくバンドの躍動感を堪能する。“Now I’m In It”では3人が手元に設置したドラムを叩くパートを回していく姿に大興奮。“My Song 5”ではアラナがそのままドラムを叩いてヘヴィなバンドサウンドをさらに押し広げたり、“Don’t Wanna”ではパッドを叩いて緩やかなサウンドに色を添えたりと、全編を通してパートに縛られることなく気ままにいろんな楽器を手にするのもハイムらしいポイントだろう。
それにしてもどの曲もみんな大体歌えるようで、“Relationships”でもしきりに「Singin’!」と織り交ぜるダニエルに応えて、口々に歌うオーディエンス。キャッチーで覚えやすいのはもちろんのことだが、ここに集った人々がこの三姉妹と会える日をどれだけ待望していたのかが伝わってくる。そしてオーディエンスが不意に叫ぶ「I love you!」に「I love you, too!」と返すような場面も何度か見られ、オーディエンスとハイムのあたたかい関係性が見てとれた。たびたび舌を出して荒々しい表情を見せるエスティの、まさにその顔が印刷されたものを持ってきたオーディエンスがカメラに抜かれ、「ええ…」って感じの表情を見せるエスティもなんだか微笑ましかった。
ダニエルがドラムを叩くということは“The Steps”。声が裏返っても「I can’t understand why you don’t understand me, baby」のところをシンガロング。不理解のフレーズとは裏腹に、なんて晴れやかに響くんだろう。日本でドラムを披露するのははじめてのようで、“Everybody’s trying to figure me out”や“Gasoline”も少しもったりしている感じはしたが、むしろバンドの立体感があってハイムらしい親密さを感じられる仕上がりに。
MCではアラナが「『I Quit』を出す前に日本に来てたらなにもquitする気が起こらなくて困ってたと思う」みたいなことを言ってくれたのも嬉しかったし(一部で話題になった幻の2020年のフジロックへの配慮もあるのかも)、しきりにオーディエンスとコミュニケーションをとりながら、久々のフジロックを楽しんでいる様子がまばゆかった。
“Blood On The Street”では入れ替わったドラムに合わせてダニエルがゆっくりと歩くファッション・ショーのウォーキングのような身惚れてしまう立ち振る舞いから、手にしたギターで迫真のソロを披露。アラナとエスティ/ダニエルで分割して大映しにするスクリーンの演出にもシビれたものだ。よくクラブのフロアでも流れていたダンスナンバー“Want You Back”を生音で踊るのもまた感慨深く、彼女たちがステージ上で軽やかに動き回るたび、会場全体がほどけていくような、不思議な心のゆとりが生まれていった。
ホワイト・ステージ全体をライトで照らして、人の多さにびっくりする三姉妹。ヴァンパイア・ウィークエンドが終わってから合流した人も多いことだろうし、実際ホワイト後方までパンパンになっていたようだ。ニック・エルマン(Key / Sax)を紹介すると、長尺のセクシーでエキサイティングなサックスソロを披露。そのままあのイントロに移行し、“Summer Girl”でもゆったりとした情感に浸るホワイトのオーディエンス。最後は”Down To Be Wrong”をみんなで歌って、ハイムのライブ、そして今年のホワイト・ステージの最終幕をしめやかに飾った。
曲中「I quit ○○」と一曲ごとにquitする対象を変え、スクリーンに表示していたハイムのライブ。自分を縛るあらゆる思い込みや偏見から解放された姿はどこまでも輝いていて、若干音圧が物足りない感じはしたが、そんなことではそこなわれない奔放で自由な姿に、オーディエンスは魅了された。彼女たちのことを「世界一かっこいいバンド」と思っていた(勝手にfigure outしたつもりになっていた)僕は、それさえも偏見だったと気づかされた。そんな一夜の情景に冠する言葉は、途中カメラで抜かれたオーディエンスが掲げていたあのフレーズがふさわしいので、敬意を込めてサブタイトルに引用させていただきたい。
[写真:全10枚]