LIVE REPORT - RED MARQUEE 7/27 SUN
まらしぃ
ボカロもアニソンもクラシックもゲーム音楽も!初めてのフジロックでピアノが躍動する豪華絢爛まらしぃ全部乗せ
ボカロ、アニソン、ニコ動、そしていわゆる「弾いてみた」などなど。あまりにもフジロックとイメージが結びつかないので、ラインナップ発表の際、熱心なファンとよく知らない人の両者から「!?」という反応をされた、今年のフジロックで最も異色の存在と言える、名古屋在住のピアニストまらしぃ。僕は後者なのだが、周りに熱心なファンもちらほらいるし、名古屋の取材スタッフの先輩方はみんな彼が好きなようなので、楽しみにしていたライブのひとつだ。
ピアニストといえば2022年のかてぃんこと角野隼斗も異色ではあったが、ヘヴンでクラシックを演奏するのとではその異色度合いもわけが違う。そもそもどんなライブをするの?顔出しNGはどうなるの?ボカロも入れたりするの?などなど、色々想像できないので、逆に楽しみになってきた。
開演前には持参したサルのぬいぐるみ(さるしぃというらしい)にステージ中央に置かれたグランドピアノを入れて撮影するファンの姿も見られ、すでにいつもと違う雰囲気を醸し出しているレッド・マーキー。登場したまらしぃはダボっとした黒Tシャツとハーフパンツ、レギンスにスニーカーというフジロッカーっぽい服装だが、頭は鹿か何かのツノがついた黒い兜にゴーグルという組み合わせで、なんかすごい見た目のバランスだ…。
期待感はさらに高まる中、最も有名なボカロ由来の曲のひとつであろう“千本桜”を披露。大きな手拍子で迎えるレッドのオーディエンスに応えながら、コミカルな動きを交えどんどん加速するまらしぃの指先。おお、めちゃくちゃエキサイティングだ。
「フジロックこんにちはー!インターネットでピアノを弾いていただけの人なんですけど、超楽しみにしてました!」と出演の喜びを語り、フジロックに向けた特別な選曲を考えてきたと話すまらしぃ。説明不要の“残酷な天使のテーゼ”はおしゃれなリズムのアレンジが冴え渡り、Bメロの手拍子などそのまんまYOASOBIのライブみたいな雰囲気の“アイドル”は、ラップパートの質感も完璧に再現され、まるでikuraが歌っているような幻聴が聞こえてくるほどだった(実際にフロアの誰かが歌ってたのかもしれない)。
続いてシューベルトの“魔王”をアレンジしたという“ちょっとつよい魔王”は、緩急の表現がえげつない。レッドでクラシックを楽譜通りに弾いてもおそらくあまり合わないだろうが、まらしぃのコントラストが強調されたプレイは白熱のライブやDJアクトが中心のレッド・マーキーでも抜群に映えている。
「どうもありがとう!楽しいっすね!」と話し、丁寧に演奏した曲と次に演奏する曲を説明する姿は、隣のオアシスなどでパフォーマンスをする大道芸人みたいでもある。それゆえに初日にSummer Eyeがそんな感じで曲の予告をしていたのはおもしろかったが、ライブアクトとしてはなかなか見たことのないスタイルだ。
お次はオリジナル楽曲のまらしぃタイム。細やかな音の粒が小気味よく踊るよう“新人類”に、吹き抜けるような爽やかで優雅な“88★彡”は繊細なタッチと力強いピアノ捌きが強調されてて、まさにコンサートではなくライブ仕様という感じの仕上がりに。速弾きに圧倒される“Love Piano”も、単にテクいだけじゃなくて感情がのった指先がドラマチックな午後のひとときを演出。カラフルにミラーボールが照らされるライティングもばっちりだ。
「音楽をやっている人間からしたら夢のような話で、本当に胸がいっぱい」とフジロックへの憧れを語ると、このステージでぜひ弾きたかったというポケモンと初音ミクのコラボ楽曲“むげんのチケット”を披露。予習のためにボカロverを聞いていた僕だが、声色の違うパートも繊細に表現する演奏に触れると、やっぱり歌っているような錯覚に陥る(実際にフロアの誰かが歌ってたのかもしれない)。
それにしても、曲間や静かなパートでは後ろのブルー・ギャラクシーのビートが混ざってくるのがなんともおもしろい。コンサートならたまったもんじゃないし嫌って人もいるだろうけど、これもまた野外フェスティバルのライブの醍醐味だろう。ボカロデビュー曲の“夢、時々…”は、リズムもたゆたうように甘く甘美でとろけるようだった。
MCではアンパンピアノ?という小さなピアノをちょこんと置き、“アンパンマンのマーチ”をかわいい感じで披露。「どうも、アンパンピアニストでした」とまらしぃ。僕は思わずキョトンとしてしまったが、こういった小遊びも彼の魅力の一つなのだろう。お次はシューティングゲームの東方Projectから“ネイティブフェイス”。僕はそのゲームをあまりよく知らないけど、君の気持ちは本当によく伝わってくる。素直に喜びを表現しながら僕らと楽しむまらしぃの誠実な姿勢に、いつの間にか惹かれている僕がいる。
「この曲をここでできて本当に嬉しい。僕の人生を変えてくれた曲だったので」と“ネイティブフェイス”を演奏できた喜びを感慨深そうに話すと、フロアから「俺も嬉しいぞー!」と飛び出すあたたかい一幕も。「次の曲が最後の曲です!」「えー!」のフロアの声量が、フジロックでよく見るようなノリじゃなさすぎておもしろかったが、熱心なファンも彼をよく知らないフジロッカーもこのひと時を一緒に楽しんでいる。
そして最後はメドレーの“ナイト・オブ・ナイツ”。リズムが際立つテトリスの曲“コロブチカ”や、やたら音数の多いアレンジのパッヘルベルの“カノン”などを織り交ぜ、縦横無尽に展開するメドレーを堪能し、大喝采の中まらしぃのフジロック初ライブは終演を迎えた。
やろうと思えばボカロ音源を入れたりもできただろうが、ピアノ一つでここまで多種多様な表現をするまらしぃにはシビれてしまったし、例えば“Seven Nation Army”なんかをカバーすればもっとわかりやすく盛り上がったかもしれないが、極端にフジロックに寄せるのではなく普段のファンへの姿勢がベースにあったことも彼の人柄を感じさせた。熱心なファンだと話していた友人をライブ中見かけたが、とてもうっとりしている様子だったので話しかけるのはやめておいた。門外漢だった僕もめちゃくちゃ楽しかったので、よかったら後で話しましょうね。