最高にハッピーなラスト・ライヴ!
カジヒデキとリディムサウンター、このユニットとしてはひとまずこれが最後のライヴとなったフジのステージ。感想を聴かれたらもう「素晴らしかった」としかいいようがない。彼らのもつ明るさ、幸福感、胸キュンな甘酸っぱさ。全部がそこにあった。そして、そのすべてがフジロックの空気とマッチしていた。
ラスト・ライヴ……とはいえ、ステージに上がった8人全員、しめっぽい雰囲気とはまったく無縁。サウンドチェックの時からニコニコと楽しそうな顔をみせていた。ジプシー・アヴァロンの上空は小雨がぱらつくお天気でも、このバンドのキラキラ感に雲がかかることはない。「あこがれ」をイントロに、すべての音が軽快に走っていく「僕のベイビー・レモネード」が始まると、ライヴ開始前からわくわくを胸に押し寄せていたお客さんが一気にはじけはじめた。もちろんそれはメンバーも同じこと。気負いはないけれど、気合いは十分。前半からカジくんはステージ前方に出て来て笑顔を振りまいている。それに応える側もまた笑顔。アヴァロンに飾られているひまわりがこんなに似合うバンドは他にない! そう断言したくなる、いい光景だった。
ライヴも中盤をすぎた頃、「僕が去年、苗場食堂に出るきっかけになった曲です。もしかすると今年出られたのもこの曲のおかげかも」と紹介されてはじまったのは「ロックと長靴」。フジロックをテーマにカジヒデキが作った曲だ。これを苗場で、みんなで歌って踊れたら最高!と思ってここに来た人たちも多いだろう。知らなかった人もちゃんと振り付け講座があったから大丈夫。ステージとお客さんがそろって「サン・サン・サン」と手を振る、しかも雨と音楽の中、長靴はいて! まさに歌の世界が目の前に広がっていた。これにはちょっと、いやかなり感動。ますますフジロックとカジヒデキとリディムサウンターが好きになった瞬間だった。
圧巻だったのはラスト。最後の全力疾走をみせるメンバーの姿に、観客は上げた手をおろす間も、ステージから目を離す間もなかった。「ラ・ブーム~MY BOOM IS ME~」ではマイクを置いたカジ&KC、ふたりのヴォーカリストがステージ前ではじけまくる。カジくんに「My Boom Is You!」と目の前で指をさされて卒倒しそうになった女子も少ないないはず。そして、そのまま「SWEET&STILL」の熱狂へ……。苗場の空へとのびていくKCの歌声をつかまんばかりに、いったいどれほどの手が上がったのだろう。目の前が明るく開けていくような感動を覚えるこの曲は、たくさんの笑顔が飛び交ったこのライヴを締めくくるのに相応しい。すべての演奏が終わった後、感極まったドラムのTA-1はお客さんの中へと飛び込んでいった。
その場に集まった全員で作り上げた幸せな空気は、ジプシー・アヴァロンの坂を上り、どこまでも広がっていった。結局、ライヴ中、雨はやまなかったし、足下はドロドロだったけれど、不満なことは何もない。カジヒデキとリディムウンターの音楽は雨空やぬかるみさえ明るく照らす。
文・写真:輪千希美