なぎら健壱&OWN RISK

Orange Court | 2011/07/31 16:00 UP
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極上の音と極上の小咄

飄々とした空気をまとい、登場したなぎら健壱。彼の出演が発表された時のフジロッカーズの沸騰ぶりを見るにつけ、「フジロックのブッキングの妙が炸裂した興奮」というよりは、朝の子供向け番組『ポンキッキ』で、”泳げたいやきくん”とともに刷り込まれた”いっぽんでもニンジン”を知る、「フジロッカーズの年齢層」をハッキリと示された気がした。加えて、やれタモリ倶楽部だなんだと騒ぐ俺たちは、30手前から上の世代のサブカル好きの集まりなんだねぇ、とか思ったりもして、ただひたすらに苦笑い。とにもかくにも、裏の「目玉アクト」と言える期待度の高さだった。

しかしながら、カントリーやフォークをやらせたら、その腕前は超一流。なぎらを中心として前面に並び立つ3人は、揃いのテンガロン・ハットを被り、音とともに、引き締まった印象を受ける。ドラム、ベースが小気味良いリズムを刻み、ギターが軽快に駆け回り、ペダル・スティール・ギターが彩りを添えていく。

「えー…昨日の晩からね、天気がよろしくないっつぅんで、祈りましたよ。まぁひとえに、私の力でこれだけ晴れたのかな、と」

つかみはOK。カントリー奏者としてのなぎらを見たかったけれども、同じくらい、しゃべりで盛り上げる彼も見たかった。至極の音と、下町の笑いが並び立つ独特の世界は唯一無二。酒を飲みたくなる展開となってきた。ひと笑い、ふた笑いをとってから、

「いつもは喋るんですが、今日はあまり喋らず、ということでね…」

と、そそくさ、泉谷しげるの”コップいっぱいの話”へと移行。苗場の自然に溶けていくかのような、たゆたうリズムは、オーディエンスの体を揺らしていく。やはり、この人は楽器を奏でれば超一流。ひとしきり浸らせたあとに、震災のことに触れてきた。極めて柔らかな口調で、震災後の(タレントとしてではなく、いちアーティストとしての)自身の状況を嘆きつつ、大正12年に起こった、関東大震災の話を引き合いにだしてきた。”復興節”への導入となるMCなのだが、それでも、最後に、

「今この歌を歌うのは、私と小沢昭一さんだけです…えー、間もなく…私ひとりになります!

と、落としていく。「MC」はとたんに「小咄(こばなし)」となった。ここで、「ソウル・フラワー・モノノケ・サミットも歌っていますよ!」と言うのは、江戸っ子風に言えば「野暮」ってものか。黒いジョークに、大いに笑わせていただいた。「帝都復興 エーゾ エーゾ」というオリジナルの歌詞からの「東北復興 エーゾ エーゾ」と変わった瞬間には、オーディエンスの歓声がひときわ大きくあがっていた。

MCにはほとんどオチがつく。とある存在を、キーコジ・ブルーシーター・段ボーラーと言い換えて”労無者とはいえ”を歌い、オーディエンスとの協調を計るために、田○ま○しを引き合いに出し、”与作”の替え歌で「保釈でシャ○を打つ〜 再逮捕〜」と皮肉る。それでも笑えてしまうのは、どこにも悪意がないからだろう。

そして、ひとつのハイライトとなったのは、やはりあの曲だった。

「私はこの曲を歌いたくないんですが、めちゃくちゃリクエストがあったもので…歌いましょう。えー、日本で一番売れた曲、だと言われています」

そんな控えめな言葉から始まったのが、子供心に鮮烈な印象を残した”いっぽんでもニンジン”。数字や単位をこの曲で覚えたという人も、決して少なくないだろう。20年以上経って、バンドの生音で聞かされると、やはり歴史に残る名曲だったのだと強く感じさせられる。幼少時代を思い起こせば、むしろ、”泳げたいやきくん”よりもシンプルで、馴染みやすかったかもしれない。レゲエのような裏打ちのリズムで、サビ終わりには泣きのギターが差し込まれるといった憎いアレンジだった。オリジナルとひと味もふた味も変えてくるのは、照れがあったのかもしれない、とふと思った。そんなこちらの想像をかき消すかのように呟かれた言葉は…

「今、自分の中で『フジロック』の歴史を変えたかな」

というものだった。これにはみんなが大きな拍手と満面の笑みを贈っていた。

そこから続くのは、裏通りを歩いているかのようなベースラインに、代わるがわる絡んでくるギターが不良っぽさを匂わせる”キャラバン”。ロックのルーツを遡ってのカントリー、という思いが強まるものだった。ふざけたネタでも一面トップであつかう『東京スポーツ』讃歌”東スポ博士”、”風に吹かれた頃”ではボブ・ディランの”風に吹かれて”を一部引用して駆け抜ける。

一カ所だけ、なぎら健壱という男が視えた瞬間があった。

「震災ですけども、東北は大変です。『がんばれがんばれ』って言いますけど、がんばってない人はいませんよ。えー、なんかもうちょっと、他の言葉がないのかな、と思います。切ない事なんて、もう考えなくても良いんじゃないかと思います。酒飲んで忘れちまいましょう!」

この言葉に引用されたのは”夜風に乾杯”の歌詞…彼はただの香ばしいオッサンではなく、プロテスト・ソングを正面切って歌える力を持ったオッサンだったのだ。当初よりもいくらか枯れた声で伝えられたシンプルな言葉は、何よりもこちらの胸に響いてきた。オーディエンスからは大きな拍手と歓声が沸き起こり、それに背中を押される形で繰り出された「酒飲め、酒を飲んで忘れちまえ」のフレーズは、どんな言葉よりも内へと染みてくるのだった。

なぎら健壱&オウン・リスクは、フジロックのオレンジ・コートという舞台を飲み干すことに成功していた。


文・西野太生輝
写真:岡村直昭
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