苗場に降りたった集合としての「和」
彼らの存在を知ったのは10年ほど前か…中部から関西にかけてのハードコアパンク愛好者を中心に、「和太鼓をおりまぜた奇妙キテレツなバンドがいる」と噂になっていたのが、このタートル・アイランドだった。当時の私は大きな間違いをしていたのだが、アイルランドの「トラッド(伝統)音楽+パンク」でアイリッシュ・パンクのザ・ポーグスが生まれたような、日本土着の和太鼓や篠笛などの、つまるところ「和」をおりまぜたバンドがついに生まれた、と喜んでいたが、ただの「和」ではなかった。彼らのことを調べるうちに、欧米に大陸と実に様々な血が混じっており、集合としての「和」だということをを気づかされたのだ。
話題騒然と言っても過言ではないフジロックの始まりを告げるスペシャルバンド、「ルート17ロックンロールバンド」を向こう正面に据えながら、前夜祭出演という「つかみ」が効いたのか、タートルは奥地オレンジコートに人を呼び込むことに成功していた。唄方(うたかた)の愛樹(ヨシキ)も、
「甲本ヒロトやトータス松本がやってるのに、わざわざ来てくれてありがとう!」
…と、触れずにはいられなかったようだ。
お客さんにタートルについて訊いてみたらば、「懐かしさがある」、「身体が反応する」…などと、捉え方はさまざまだった。当のタートルは、「斑(まだら)」をテーマに掲げ、メンバーそれぞれがバラバラにはみ出した感性で音の塊をぶちかます、というスタンス。お客さんが打ち明けてくれたそれぞれの反応は、何ひとつ間違いではないのだ。
ステージには、前述した和太鼓やドラムはもちろんのこと、ティンパレス(ラテン)にジャンベ(アフリカ)、生ビールの樽などなど、生まれた年代も地域も実にさまざまな打楽器が並べられており、「叩く」という原始から続く衝動で祭り囃子を生みだすこともあれば、原点のゴリゴリなハードコアが顔をだすこともある。はたまた四つ打ちのハウスや、まるでアフリカのごときビートを叩きだすこともあり、タートルはすでに、「ジャンル」を越えた音楽になっているというか、もはや「音」を越えた「コミュニティ」のような集団なのだと思う。
その証拠に、ステージ前にはチョンマゲを結った男や、背中に逆さまの「消」という一文字を背負った「火付け(盛り上げ役、の意だと思われる)」が集まっていた。佳境にさしかかれば紙吹雪が舞うのがタートルの特徴だが、大自然の中ということで紙は禁止。悩んだあげくに手摘みの葉っぱを舞い上がらせるという機転をきかせ、ライヴは「熱い」のだけれども、ふと改めて自分が大自然の中にいることを教えてくれたような、ひとときの涼しさをもたらしていた。
タートルのフジロック出演は、そうとう待った。年が切り替わるごとに「そろそろ出てくるだろう」と思っていた。ある意味で遅すぎた。彼らは、すでに出演依頼を受ける側ではなく、愛知県は豊田市にある豊田大橋の下で、読んでそのまま「橋の下世界音楽祭」という、「フェスを越えた『祭り』」を作り上げる立場にある。
「フェス」と書くとお金をイメージするだろうが、「祭り」ならばお金の印象はない。彼らは今まさに、持ち前のD.I.Y精神によって、本来ならば誰もが楽しめる「祭り」を創造しているところだ。カレンダーをにらみ、日本列島を豊田に向けて旅するだけで、きっととんでもない現象を目撃することとなるはずだ。
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