太陽のような歌と笑顔が会場を包んだひととき
「今年はずっと雨なんじゃないの?」友人界隈での心配ごとも嘘のように晴れたフジロック初日の昼下がり。こんな嬉しいことはないのに、この時ばかりは雨の中で聞きたかったな、なんて思うのは不徳だろうか。
それはそうとして、定刻になると静かに現れたのがあがた森魚だ。「みなさま、こんにちは。普段ボケっとやってます。束の間ではございますが、よろしくお願いします。」と丁重な挨拶に会場は温かな歓迎ムードである。
40年もの活動歴のある彼の初となるフジロックの登場を待っていたのは、若かりし頃にフォークに親しんできたおじさまコアファンばかりではない。老若男女、カテゴライズしにくい客層が彼の歌を求め、はるばる奥地のオレンジコートまで足を運んでいる。
代表曲“赤色エレジー”にみられる叙情的な歌のイメージのあるあがた森魚ではあるが、今回のステージでは、白井良明、武川雅寛、駒沢裕城らムーンライダーズやはちみつぱいなどで知られる往年の盟友たちを引き連れ、総勢6人でのバンド構成となっていた。
まるでこの時間の太陽はあがた森魚なんじゃないかと思うほど、朗らかな笑顔で、いつもながらに坦々と演奏が進む。中盤、ステージ前方が続々と人で埋まっていく頃に、”俺の知らない内田裕也は俺の知ってる宇宙の夕焼け”が始まる。「もしもあなたが、歌うたうなら。頼むぜコーラス〜」と客席とおっかけをしながら次第にに大合唱と化していく。彼の優しくて力強さのある歌声は、どんどん会場を巻き込んでいく。
続く”つんのめってるんだ“の時には、知ってる人も知らない人もあがた森魚の前ではみんな平等というべきか、モッシュしたり踊り明かしたりするのとはまた違った一体感が感じられた。ケルティックなイントロで始まる”大道芸人”ではやっぱり踊るのだけど。
MC中に「あがっちゃいないけど、(人が)多すぎてやりづらい。誰に向かってうたっていいのやら」といつものダラダラ喋りを自重しながらも、思わず本音が出る。
泣きのギターとトランペットのイントロで、待ってましたとばかりに会場から唸り声が聞こえたのは、1974年のアルバム『噫無情—レ・ミゼラブル—』からの名曲”大寒町”。待ってましたとばかりに、どっぷりと浸って聞いている会場の雰囲気が感じられた。
武川雅寛とのユニット雷蔵時代の“月食”にて演奏はラストを迎えたのだが、フジロックでの彼のステージはこれだけじゃ物足りないのが正直な感想だ。オレンジコートだけじゃ、まだまだ。苗場食堂に木道亭、奥地のバスカーストップだっていい。バンド構成は贅沢なほどに素晴らしい。だけど欲を出せば生声が聞こえるくらいの至近距離で聞けたらもっと最高なんじゃないか。次出るときは、ギター一本でふらりと現れてよ、流しのゴローさん!(あがた氏が出演したドラマ『深夜食堂』の役名です。)
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