孤高の吟遊詩人
今年のフジロックはビョークを筆頭に、エイミー・マン、スザンヌ・ヴェガといった女性シンガーが多く出演しているけれど、男性シンガーだって負けちゃいない。フジロッカーのみなさん、孤高の吟遊詩人、ロン・セクスミスがいるのをお忘れではないだろうか?
東日本大震災の直後には、『Cobblestone Runaway』に収録されている“Former Glory”の弾き語り動画を日本復興のために制作。さらには、同年のフジロックに出演し、歌の力によって私たちを勇気づけてくれたことは記憶に新しい。そんな心優しい彼が、新作『Foever Endeavour』を携えて再び苗場の地に帰ってきてくれた。
前回はフィールドオブヘブンでの出演だったが、今回は初出演のときと同じレッドマーキー。タイムテーブルが発表されたときに、もうちょと遅い時間に出演してもいいんじゃないの?と思ったファンも多いはずだ。まったくもって、その通り。いつまでも変わらぬ外見のせいか、デビュー当時のフレッシュさが常にあるけれど、今回のアルバムはもう通算13作目。もうベテランの域に差し掛かっているといっても過言ではない。
昨日のゲリラ豪雨が嘘だったかのように、午後2時の苗場はとても暑く、Tシャツ1枚でも汗が出てくる。そんな暑さにもかかわらず、ロン・セクスミスはブルーのシャツにジャケットを羽織って、汗ひとつかいてない。これから結婚式にふらっと出かけたとしても、なんら問題はないだろう。それくらい、きっちりとした格好だ。また、ビルボードライヴかと思えるほどに、オーディエンスの年齢層が高い。そして、あちらこちらから「ロン様あああ!」と野太い声援がとんでいた。
中央にロンがアコースティックギターを抱えて立ち、その周りをギター、ベース、ドラム、キーボードのサポートメンバーが取り囲む。最新アルバムは、ロンが自身の「生」に対して真っ正面から向き合ったパーソナルな作品だけあって、非常に暗くて重たい曲もある。だが、そこは20年以上のキャリアをもつベテランの腕の見せ所。さまざまな音楽ジャンルを聴く人たちが集まるフェスティバルということを心得ており、新曲と定番の楽曲を上手に組み合わせた、バランスのとれた構成にしている。 “Secret Heart”や “Gold in Them Hills”(Cold Playのクリス・マーティンが参加している)を歌い上げるロン・セクスミスの姿は、熱心なファンはもちろん、初めて彼を観ている人であっても感極まるものがあったはずだ。
終盤の“Brandy Alexander”では、ロンがうながしたわけではないのに、自然と手拍子がレッドマーキーの最前列から後ろまでいっせいに起こるという、素敵なシーンもあった。たくさん楽曲があるロンだけに、あれも聴きたかった、これも聴きたかった思うのは至極当然。しかし、限られた50分という時間のなかで、これほどまでの陶酔をもたらしてくれるライヴはそうそうないだろう。
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