カウンターとしてのサブカルチャーを満喫せよ
今年3回目となったアトミックカフェ。津田大介・もんじゅ君・絶対!!原子力戦隊スイシンジャーによるアトミックカフェトークとはいかなるものなのか。がらんどうのステージを前に展開が読めない中、高らかな笑いとともに登場したのは黒装束の怪人反原発男であった。
絶対!!原子力戦隊スイシンジャーは、youtubeなど動画投稿サイトで話題となっている原子力発電をテーマにしたコントである。東電レッド・経産省ブルー・マスコミホワイトの3人からなる絶対原子力戦隊が、原子力村の秩序を乱す怪人反原発男と戦うという設定で、政治的なひねりが控え目の素直なバランスが楽しい。
利権や原子力政策の硬直性などをおちょくったジョークの応酬は、怪人反原発男を無事撃退したスイシンジャーが「もんじゅ君を励ましに行こう」と決意する展開になり、トークセッションの2番手、もんじゅ君が登壇する運びになった。
高速増殖炉もんじゅの非公式ゆるキャラであるもんじゅ君は「日本一のニート」を自称していて「絶対に働きたくない」と常々言っているので、スイシンジャーとしてはたしかに頭の痛い存在である。パステルカラーの着ぐるみと手作り感満載の戦隊ヒーローというおよそフジロックらしからぬパフォーマンスは「もんじゅ君が泣きながらナトリウム漏れを起こす」というシュールな結末となった。
「ああ、誰かもんじゅ君を助けてあげて!」という観客の思いが高まった瞬間、ひょっこりと津田大介が登場する展開に膝を叩いて笑ったのは筆者だけではあるまい。
昨年のアトミックカフェをはじめ何回もの競演を果たしているふたりの掛け合いは絶妙で、「今年のお目当てはMy Bloody Valentine」「仕事をしないでフェスで遊びたい」といったなにげないトークに最先端の原子力事情を折り込んでくるという内容に観客は聞き入っていた。最後にもんじゅ君の持ち歌「もんじゅ君音頭」を歌って、めでたくステージはお開きとなったのでる(ちなみにもんじゅ君の去年のお目当てはタブラ奏者のU-zhaanだった。シューゲイザー、アンビエント系がお好みなのだろうか)。
筆者が驚いたのは、アトミックカフェトーク終了後、ライブを待たずに会場を後にしたフジロッカーが少なからずいた点だ。ステージ終了後の津田大介も「昨年に引き続いて、お客さんに浸透して来ているように感じた」と語っていたが、YMOやASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文をはじめとした著名なアーティストが先頭に立って人々を牽引するフェーズから、それぞれの関心や視点で接するフェーズに脱原発も移行し始めているのであろう。
それにしても、去年は15才の脱原発アイドル藤波心と11才のかなる、つまりいわゆる「ローティーン地下アイドル」による”LOVE!LOVE!ハイロ”を紹介したかと思ったら、今年は戦隊物である。昨年から連続登場となったもんじゅ君に加えて、今年は原発ゼロノミクスをスローガンにしたゼロノミクマ(ゼロクマ)もフロアから「フジロックに参戦」したかたちとなった。そして最終日には東浩紀によるトークセッションが控えている。
これらのことは、アトミックカフェは音楽でもスピーチでもない「文化的出し物」の発表の場として成立しつつあることを意味しているように見える。
ただ声をあげるだけではなく、反原発という状況をどのように位置づけ、文脈を作って行くのか。カルチャーがカウンターという形で社会に貢献できるとしたら、この点はポイントのひとつになろう。「文化的出し物」としてのサブカルチャーを表現する場所という機能を、アトミックカフェは担い始めているのではないだろうか。
近年マンネリ化がしばしば指摘されるフジロックにおいて、これは新しい試みのように思える。訳が分からないごった煮的な面白さがフェスの本質だとするならば、その本質に最も接近している場所のひとつが、ここジプシーアバロンなのだ。(文中敬称略)
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