至極のベッドタイムミュージック
ライはとにかく謎が多いアーティストだ。デビューアルバム『Woman』のジャケットに写っているのは、仰け反っているような裸の女性の首元。ソロアーティストなのかグループなのか、女性なのか男性なのか、検討もつかなかった。音を聴いてみれば、シャーデー・アデュを彷彿とさせるような、ややスモーキーな歌声。そして私をもっとも驚かせたのは、その声が男性の声だということである。
その女性と間違うような美声の持ち主は、シンガー兼プロデューサーであるマイク・ミロシュ。ライは、マイクとエレクトロ・ソウル・バンドのクアドロンのメンバーであるロビン・ハンニバルの2人組ユニットなのだ。…といった簡単な素性がある程度明らかになった今でも、ライブに関しては謎ばかり。とある場所では、メンバーの後ろから強く照明を当てて、メンバーのシルエットしか確認できなかったとか…。今回のステージは、そんな謎多きアーティストを日本でみられる初めてのチャンスだったのだ。
あまりに謎に包まれた点が多かったため、もっともったいぶって登場すると思っていたのだが、メンバーは意外とあっさりとステージ上に姿をみせた。特にコンセプチュアルな演出も組まれていないようだ。「意外と普通なのかもしれない」そう思っていたのだが、マイクが第一声を発した瞬間、あまりの声の美しさに観客からため息が漏れた。歌声もさることながら、ファッション雑誌に載ってても何ら遜色のないユニセックスな容姿。今回も撮影がNGということで、その美貌をビジュアルでお伝えできないのがもどかしいのだけど、敢えて自身のビジュアルを前に出さないのは、ビジュアルで話題が先行してしまうのを避けたいのかもしれない。(それにしてももったいない…!)
ステージ上にはマイクの他に、バイオリンとチェロの弦楽器の担当の2人、キーボード1人、ベース1人、ドラム1人という6人編成。残念ながら、ロビン・ハンニバルがどの人だったのか、確認できなかった(ステージ上にはいなかったように思われる)。あくまでも生演奏だけでアルバムの世界観を再現していった。ライブ後半にはパーカッションも加えた即興演奏で、その世界感を深めていく。そのどこか気怠さが交じる甘美な音楽は、究極のベッドタイムミュージックだった。
ただ、途中の機材トラブルで音がハウリングしてしまったのが、とにかく残念。今後の期待値も込めて、今回のライブに関しては大絶賛する手前に留めておきたい。何度か単独公演を経て、いつかフジロックの夜の野外ステージへ戻ってきて欲しいというのが、至極個人的な希望だ。
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