My Name is Skrillex
去年、初日のホワイトステージのヘッドライナーを飾ったジェイムズ・ブレイクは、アルバムが1枚だったのにもかかわらず、その大役をつとめあげたわけだが、アルバムリリースを一度もしたことのないミュージシャンがヘッドライナーになるなんてことは、フジロックの歴史を振り返っても初めてになるのかもしれない。いくら海外で人気があるからといっても、普通のフェスティバルだったらこんな抜擢はないと思う。だって、DJだよ。ザ・ストライプスのような若手バンドだったらわからなくもないけれど、若手のDJにヘッドライナーを任せるなんて、ホワイトステージは本当にエッジの効いたステージだ。
そのあまりある期待を受けてステージに上るのは、スクリレックスことサニー・ムーア。フロム・ファースト・トゥ・ラストというバンドではボーカルを務めていたが、声帯を痛めて以降、バンドを脱退してソロ活動をおこなっている。2008年以降、現在の『スクリレックス』名義での活動を開始し、ここ数年の間に海外のフェスティバル、DJイベントに引っ張りだこの存在となるまでに成長。日本での知名度も徐々にあがってきており、コアな洋楽リスナーからライト層へのキャズムを越えるのは時間の問題。そして、今日のライヴの評判がそのキャズム越えに大きく関わってくるのは間違いないだろう。
雨男がどこかのステージにいるらしく、夜10時の苗場はすさまじい豪雨。雨具のフードを被るとバチバチバチと雨の叩きつける音が聞こえるほどだ。ステージには『スター・ウォーズ』で登場するような戦闘マシーンのようなセットが組まれている。とてもお金がかかっていそうなステージで、スクリレックスがグリーンステージのヘッドライナーなみの扱いをされていることがうかがえる。モニターは定刻の22:00に向けて、カウントダウンがおこなわれている。そして、その数字が「5、4、3、2、1」とカウントを刻み、「0」となった瞬間からホワイトステージはSFの世界へと様変わりした。
冒頭から“My Name is Skrillex”をドロップ。雨脚が強くなって雷まで落ちだすし、レーザーは四方八方に発射されるし、ライティングは目がチカチカするほどに激しいし…と序盤から容赦のない構成だ。普通の人はそんなに激しいDJはしませんよ!とツッコミを入れたくなるほどに、スクリレックスの動きがキレキレ。昨年のジェイムズ・ブレイクのようなダブ・ステップとはうって変わって、これぞまさにダンス・ミュージックな曲が次々とスピンされる。映像も3Dからモノクロにいたるまでと非常に凝っており、音楽とシンクロするアート作品といっても過言ではないものだ。
中盤は常に同じような曲をかけるので、若干の中だるみというか、物足りなさを感じたが、ラストに向けてのラッシュのかけ方はスクリレックスにしかできないものだった。自身の楽曲である“Scary Monsters And Nice”を軸にして、立て続けに盛り上がること間違いなしの曲を投下する。ステージからは火柱があがるし、スクリレックスの乗っているマシーンが突然変形するし、ステージ上が観えなくなるほどにスモークがたかれるし、オーディエンスに「Say Yeah!」、「Say Fuck You!」、「Say Fuji Rock!」と言わせるし、モニターに日本の国旗を映し出したり(終演後は日本国旗とアメリカ国旗を振っていた)と、ありとあらゆる盛り上げ方でライヴを大団円へと導いた。だが、90分の持ち時間は若干長いと感じる人もいたはずなので、祭りの最後を打ち上げるクロージングアクトとして次は登場してほしいとも思った。
徐々に熱量を上げていくなんて表現を使わせない、スタートからゴールまで全力で駆け抜けていくライヴだった。
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