時代遅れの 少しおかしなのが好き
今から20年程前、青山にMANIAC LOVEというクラブがあった。日本のテクノシーンを黎明期からゼロ年代まで支え続け、意義深いパーティーや有名DJを何人も排出した、まさに伝説のクラブである。2005年に起きた突然の閉店は(同じテクノ系のイベントで盛り上がっていた新宿のLIQUIDROOMが同時期に閉鎖して渋谷に移転したこともあって)、何かひとつの時代が終わったような大きな喪失感を当時のクラバーにもたらしたものであった。
そのANIAC LOVEのオープン20周年を記念して、今年都内では限定復活のイベントがおこなわれている。そんななかオールナイトフジの今年のテーマが「マニアック」であるという情報がもたらされ、もしやと思ったファンもいただろう。
フジロック直前におこなわれた、オールナイトフジオーガナイザーのブライアン・バートンルイスのインタビューを見て、かすかな予感は大きな期待に膨らんだ。90年代に私たちが愛したあのテクノが、また経験できるのではないか。あいにくの天気は気を重くしたが、上下のレインスーツと長靴に身を包み、iphoneその他をジップロックに封入のうえ、足早にオレンジコートに向かった。
入場規制が起きることもあるオールナイトフジであるが、天候の影響もあってからお客さんの入りはボチボチといったところである。そしてそこで繰り広げられたのは、90年代に私たちが愛して止まなかった、圧倒的にストイックなミニマルテクノだった。
フラッシュや火炎放射器はもちろん、アンセムや大ネタといったサービスを一切排した音の配置にはじめはとまどった様子のフロアだったが、ブライアン・バートンルイスと浅野忠信のメッセージが徐々に伝わって来たのだろう。ギミックに頼らない4つ打ちとウーハーの響きに身を委ね無心で踊り続ける快楽に、オレンジコート全体は次第に酔いしれていった。
予想を裏切らない展開に胸が熱くなると同時に、ただの懐古ではなく、やはりクラブの本道はこれだろうとの思いでふと振り向けば、お客さんでいっぱいになったオレンジコートは若者の笑顔で満ちていた。
凝った照明にもコール&レスポンスにも頼らないDJスタイルはいまとなっては小難しく、もしかしたら時代遅れで「マニアック」な代物なのかもしれない。しかし、良いものはたしかに良い。きちんとしたサウンドシステムで、大勢で踊りながら聞くテクノの素晴らしさを再確認させてくれる、あっという間の60分間であった。
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