「彼」は確かにここにいる
ヘッドライナーのときはすさまじい雷雨だったけど、日付が変わる前には雨は止んでしまった。月までちょっとみえるようになった。ピラミッド・ガーデンはキャンプ場に併設されたステージで、朝霧JAMっぽい雰囲気がある。地面は芝生なので、先ほどの雨の影響でぬかるんでいる。
ステージにはたくさんのキャンドル・ジュンによるロウソクがあり、小さな炎がいくつも揺らめいている。開始予定時刻になっても、サウンドチェックをしていて、しかもタブラを演奏するユザーンは、「みんなお尻が寒くない? こっちはロウソクがあって暖かいんだよ」とか「大きな音でテントで寝てるやつを叩き起こす」などといって笑わせる。
予定時刻を15分くらい過ぎたころ、ようやく始まる。ヴァイオリンの勝井祐二が「僕の希望でピラミッド・ガーデンで演奏できるようになりました。一緒に音を出してみたい人を呼びました」ということを語る。さすがはフジロックのステージ完全制覇を目指す男、この日の日中にはバスカーストップに出ていた勝井。主要なステージはほとんど出ている。
まずは、勝井とユザーンのみの演奏。ふたりは何度も共演してぴったり息が合いゆったりした立ち上がりから激しく鳴らすところまで自在である。
そしてSoRA(ソラ)が現れ、ソラのギターによる弾き語りに、勝井とユザーンが伴奏をつける形になる。ソラはナチュラルでオーガニックな感じの女性アーティストである。ゆったりとした声で、新しい世界への目覚めや平和な世界への願望を歌う。
入れ替わりに登場したのは青葉市子。ポンチョを羽織って竹ぼうきを持ってステージに現れたときには「ジブリに出てくる女の子??」と思った。ちょっと不思議ちゃん入った感じの雰囲気を漂わせ、アコースティックギターを弾き語る。
ステージ前は、お客さんがそれぞれ自分たちで用意した椅子に座り、それを囲むように立ったまま観るお客さんがいる。勝井やユザーンの知名度なのか、かなりお客さんが集まってきている。最後はユザーンが「今日は明けて7月27日なんですけど、僕の友だちのレイハラカミの命日なんですね。彼と作った曲をやります」と「川越ランデブー」。ユザーンのポエトリー・リーディングに勝井がヴァイオリンで、青葉市子がヴォーカルとギターで音を重ねていく。
ロウソクの炎がゆらめき、昼の灼熱も夕方から夜の雷雨もなかったかのような、ひんやりと湿った空気にやさしい音が染み入っていく。ステージを観ている人たちはただ、その音に包まれていた。最後に勝井がメンバー紹介をする際に、ユザーン、ソラ、青葉市子に続いてレイハラカミの名前を挙げた。彼は確かに、ここにいたのだった。
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