自信に裏付けられた安定のステージ
今年のフジロックはスザンヌ・ヴェガやプリシア・アーンといった女性シンガーソングライターのラインナップが充実している。中でも注目なのが、2日目グリーンステージに登場するエイミー・マンだ。派手なアレンジや演出など必要のない卓越したソング・ライティング・センスに、寂寥感と気怠さを絶妙に含んだまっすぐで美しい歌声。そのどこをとっても、稀代のシンガーソングライターだ。ソロ・シンガーとして20年のキャリアがありながら、今回フジロックには初出演となる。2005年の朝霧JAMでは、雄大な富士山の目の前で、素晴らしい歌声を披露してくれたことが未だ色濃く記憶に残っているので、今回も期待せずにはいられない。
4年ぶりに日本の観客の前に姿を表した彼女は、52歳になった今でも、相変わらず手足が長くすらっとした長身というスタイルの良さ。妖精のような白い肌にブロンドの髪が映える。飄々としたその佇まいは、まるで雪豹のようだ。細身のジーンズにTシャツ、そこに黒いベストを羽織るという、今時の日本の大学生によくみかけるような”木こりファッション”も、エイミーの容姿だと様になる。
“Hi, I’m Aimee Mann”と簡単な自己紹介からライブを始めようとするも、機材の調子が気になる模様で、しばらくスタッフと機材確認をすることとなった。仕切り直しでもう一度自己紹介をした後、「4th of July」からライブはスタートした。彼女の直近のライブのセットリストをみても、この曲から始まるのは珍しい。今が7月ということを意識した選曲だったのかもしれない。
ライブは昨年4年ぶりにリリースしたアルバム『Charmer』からの楽曲など、新旧織り交ぜたセットリストとなった。ハイライトとなったのは、映画「Magnolia」のサントラから2曲続けて演奏されたときだろう。まずはアコースティック・ギターの弾き語りで「Save Me」をしっとりと歌い上げた。「誰も愛することはできないかもしれない」と歌う、ラブソングだ。続いてバンドも演奏に加わり、「Wise Up」を披露した。この楽曲は劇中で主要登場人物が「こんなはずじゃなかった」と曲に合わせて口ずさむという、映画のベストシーンで使われている。このシーンのように、日々の生活の中で時折もどかしい想いを抱きながら生きる私たちを、ただ黙って優しく抱きしめてくれるような歌声に、思わず涙がでた。エイミーのステージ後、苗場は豪雨に見舞われることになるのだが、この時は時折日も差し、心地よい風が吹いていた。
最後に演奏されたのは、「Magnolia」のサントラからもう1曲、「Deathly」。近くで見ていた男性が、気持ちよさそうにエアギター(といっても、へヴィーメタルのアレのように激しいものではない)をしながら気持ちよさそうに歌っていたのだが、まさに心を解放するような清々しい演奏だった。曲のアウトロでメンバー紹介をし、軽やかなジャンプで曲を締めると、エイミーは風のように走ってステージを去っていった。
歌声も演奏も常に安定した素晴らしいステージだった。彼女自身も、時折はにかんだような表情をしてみせるものの、終始クール。彼女の音楽に対する確固たる意志や自信がステージに、そして彼女自身の美しさに表れているのだろう。この日、アルバム『I’m with Stupid』から演奏された「That’s Just What You Are」、まさにそんな想いを彼女に捧げた。
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