心地良いベッドタイム・ミュージック
日付が変わる少し前、ピラミッドガーデンへと向かう。前夜祭から断続的に降り続いていた雨も止み、雲間から月が顔を出し始めたフジロック初日の深夜。しん…と冷えた空気を感じながらピラミッドガーデンへと向かうと、抜けるような透明感を持つ鍵盤の演奏が聴こえてくる。自分を取り巻く幻想的な状況に、思わず「幽玄」なんて二文字が頭に浮かぶ。
「お客さんとしてではなく、まるで住人のようにくつろいで欲しい」とはこの地の管理人、キャンドル・ジュンの言葉。その言葉通り、ピラミッド・ガーデンはフジロック最後の秘境と言いたくなるほど、訪れる人をゆっくりとした時間の流れで包んでいる。
先ほどからサウンドチェックを行っているのは、グレイプバインのボーカリスト・田中和将とキーボーディスト・高野勲の二人。バンド内天然パーマ担当(?)がスピンオフしたロック・デュオが、「パーマネンツ」だ。チェックが済むと田中がふとマイクに向かい、一瞬なにか言いたげな仕草を見せるものの、にやりと笑っただけで、そのまま楽屋へ去って行ってしまった。
「すごいね、雨の中。よく来てくれて。ありがとうございます。フジロック初めましてです、マーパーです。」パーマネンツ名義としては初登場であるのを、改めてステージに登場した田中がこう語る。「僕ら天気に関してはすごい勝率が高かったんですけど、さすがに昨今の異常気象には勝てなかったようで。それも魔法、ということで」こう言いながら演奏され始めたのは、”それを魔法と呼ぶのなら”。グレイプバインの曲を基調としつつ、フジロックに絡めたカバー曲も披露されていく。通常のバンド形態よりも自然体な演奏に、気持ち良く夜空に抜ける田中の唄声。静かに息づく演奏の熱みたいなものが、深夜の空気と溶けあって、なんとも心地良い。
翌日に登場予定のエイミー・マンを先生と呼びつつ、彼女の”Stupid Thing”にリスペクトを捧げた”遠くの君へ”が演奏される。テントの中の人には寝ながら聴いて下さいと言いながら、心地良いベッドタイム・ミュージックとしてデビット・ボウイの”Life On Mars?”やアデルの”Chasing Pavements “とカバー曲が続く。演奏が終わるたびにフジロックに出てないんやっけ?と客席に確認をとり、お客さんをクスクス笑わせることも忘れない。
ライヴ後半、”Sanctuary”、”小宇宙”と続くと、お客さんを「寝かしにかかる」子守歌もより本格的になってくる。ブライアン・アダムスの”La Cienega just Smiled(ラ・シエネガ・ジャスト・スマイルド)”に”smalltown,superhero”の演奏が終わると、そろそろ夢を見る時間。「どうもありがとう!」の一言もささやくような田中の挨拶を残して、フジロック最後の秘境の夜は静かに更けて行くのだった。
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