夜明け前のサード・サマー・オブ・ラブ
2日目のアトッミックカフェトークは、昨年に続いて津田大介、加藤登紀子、佐藤タイジに加えて原子力資料情報室より澤井正子が参加しての開催となった。雨が降る中多くのフジロッカーがジプシーアバロンに集まり、4人の話を真剣に聞き入っていた。
トークの口火を切った加藤は「時代が変わっているという感覚がある」と述べた。参院選全国比例区に出馬したミュージシャン三宅洋平による選挙フェスを例に出し、若い人たちがこれまでにないツールを見つけていることに力を感じると話していた。
前回の参議院選について「もやもや」する感じがあるという佐藤は、三宅の出馬にも「なんで政治に参加するの?」と「もやもや」するという。ミュージシャンは政治家をインスパイアする立場にいて、例えば自身が企画する”中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2013″のようにミュージシャンのテリトリーのなかで実行できることをやっていくべきなのではないかと佐藤は言う。
こうした佐藤の姿勢について「夢があるけど、甘いのでは」と加藤がばっさり。昨年のアトミックカフェでの加藤のライブに佐藤がゲスト参加するなど、最近コラボ活動が目立つふたりであるが、トークの面でも信頼関係が生まれているようだ。
澤井は全国で唯一稼働している関西電力の大飯原発が定期検査に入るため、9月以降一次的に原発ゼロになることを紹介。今回の選挙結果を「つらかった」ととらえ、原発ゼロになるこの時期をのチャンスとしたうえでそれを生かして行くことが大切だと述べていた。
ここで津田より「参議院選の投票に行った人、どれくらいいますか?」との問いかけがあった。それを受けてフロアのうち7-8割がさっと挙手し、「さすがフジロック!」との声が上がる。
さらに加藤が、著名人や芸能人が実際は政治家を応援したりデモに参加している現状を紹介し、発言力のある人間はむしろ個人的な信条や行動をテレビ等で表に出せないと述べる。マスコミのこのような姿勢は情報を制限するものであるが、ネットの情報も玉石混合となっている。きちんとした知識にもとづいた取捨選択が必要だと、ステージでは確認されていた。
「まず結論を決めるのが大切だ」と佐藤は言う。これを受け、方法論など細かい点は政治や行政で後から議論をすれば良い。しかし、どちらを向いて行くべきなのかを決めるのは個人であり、その集合が民意なのだと津田が発言する。
それはつまり、自分の意見や生き方を自分で決めるのがまず必要だということなのであろう。加藤が「みんな革命家になろう!」と声を上げる。「自分をしばっているものから自分を自由にする生き方を選ぼう!」と身を乗り出して語る加藤に呼応し、フロアが熱気を帯びてくる。
学生運動関連で実刑判決を受け収監された、自身の夫である藤本敏夫や今年3月に仮釈放となった堀江隆文を紹介し、社会から排除されることはアイデンティティの獲得につながると加藤は言う。非正規雇用や就職難にあえぐ若い世代も彼らと同様に社会から排除されている。しかし、だからこそ居場所を自分で作ることができると加藤は述べる。
これを受け、私たちにはたくさんの仲間がいるのを忘れてはいけないと澤井がつなぐ。「選挙に負けたのではなく、システムに負けたと思っている」とする澤井は、経済が上向きでならないというしばりから脱出し、低成長の時代だからこそ持続可能性に目を向けられるのだと結論づけていた。
佐藤は60年代後半の文化的エポックであったヒッピームーブメント「サマー・オブ・ラブ」と80年代後半にイギリスで起きた「セカンド・サマー・オブ・ラブ」を紹介し、日本では「サード・サマー・オブ・ラブ」が起きているのではないのか。起きていると言っていいのではないのか、と発言。
クラブ文化における精神的源流といえるこれらのムーブメントのマインドをあえてひとことで表すとするなら、非商業志向やDIY志向と言えるだろう。新しくスタートしなくてはならないことがたくさんある現在、想像力のある人がそれをリードし、勇気を持って進める姿勢が大切だとの佐藤の締めくくりに、フロアは大きくうなづいていた。
「お客さんは雨の中立っているのだから」との加藤の気配りで、登壇者も雨の中で立ったまま話をした30分。この1年の間にさまざまな実践を経験したからであろう。登壇者の発言は昨年よりに確信に満ち、未来を見据えた前向きな姿勢がより強くなったように感じた。その熱意と信念は、フジロッカーにもしっかりと受け継がれたのである。(文中敬称略)
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