濃厚な美学の方程式
つけすぎたオー・ド・トワレの様に「美学」を振りまくアーティストも昨今は珍しいのではないでしょうか?濃厚な香りが、オールバックからパラリと落ちた前髪からプンプン匂うのであります。ニューロマ的世界観を含んだ大仰なメロディ、退廃的で、今となってはどこかレトロな感覚。バイオリンが加わったバンド編成は、深みと重みをズッシリ感じさせ、実はこのマーキーでのライブがハーツ初見だった私は、フレッシュさの中に高い完成度と貫禄を併せ持つ、ハーツ帝国を築き上げた2人にジェラシーさえ感じたのでした。
観客を右・中央・左サイドに分けて、拍手をさせたり、煽りもお上手で、存在が光を放っています。見ていて眩しいくらい、惹きつられずにいられません。背が高く、羨望され、奏でる音で他を圧倒する存在。泥にまみれた長靴を履いた、低い背の私はステージ上の彼らを見上げ、選ばれた人とそうでない人の線引きがこんなにも残酷に目の前につきつけられる環境が他にあるでしょうか?レッド・マーキー。まさに『エグザイル~孤高~』です。彼らの輝きを心から楽しむことがこんなに苦しいなんて。何という種類の罰なのか?それは「美学」を忘れた自分への罰なのです。履きたくなければ長靴なんて履かなくてもいいんだよ!フェスだろうがアウトドア製品に身を包まずに、ドルチェ&ガッバーナで苗場に来て、シルクのジャケットを雨と泥汚れで台無しにして、モッシュッピットでパンツの裾をボロボロにさせればいいんだよ!
まあ、自分の美学なんてこの程度のものですが、しかし、流されていた何かを思い出させてくれたのは確かです。
ふと気づくと、”Say”でのオーディエンスの合唱の美しさに、卑しい憑き物のような気持ちも一気に浄化されていくのでした。会場の 一体感、言葉にならない感動的なオーラに満ちた、これぞフジロックでしか体感できないライブだと胸の奥が熱くなります。これにはセオも同様の思いを抱いた様で、ステージから「フジローック!」「素晴らしい夜!」と、客席に向かって何度も繰り返していました。自然と出てしまうのでしょう。演奏していたセオとアダムも観客と同様の感動を持ち帰ったであろう事を確信し、浄化された心は真の満足を得たのでした。
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