夏木マリ・ア・ゴーゴー!
ある時は歌手、ある時は女優。そしてまたある時は魔女(声)になり、時には湯婆婆(ゆばーば)にだってなってし まう。夏木マリは、たくさんの顔を持つ表現者だ。フジロック二日目、午前中にはオレンジ・コートでパワフルなステージを見せてくれたばかり。今夜はカッコ良いシンガーとして、さらに苗場食堂に 登場してくれることになっている。
「オレンジ・コート見てくれた人?オーケー、アリガトッ!」
開演時間を少し過ぎて、姉さんが颯爽と現れた。グリーンステージに登場間近のビョークにも負けないエッジーなメ イクに、ダメージジーンズを穿きこなした立ち姿。竹を割りまくったような男性的なカッコ良さに、ステージに集うお客さんとのコミュニケーションで見せる表情はとってもキュート。とにかくめちゃくちゃチャーミングなのである。
彼女のバックには夫でありパーカッショ二ストの斎藤ノブを始め、ギターのichiro、サックスの竹上良成、ベースの 櫻井哲夫、ドラムの山内陽一朗、キーボード白井アキトが演奏陣として脇を固めていた。ジャニス・ジョプリンの”ミ ー・アンド・ボビー・マギー”でライヴがスタートすると、とにかく迫力満点、パンチ効きまくりの唄声に、ステージ 周辺はお客さんでギッチギチになってしまっている。
「池袋で生まれたアタシ。おしゃまで気の強い女の子…」
艶やかなサックスの演奏からこう歌い出されたのは、”スワサントンブルース”。彼女自身の半生について、語りと歌 のギリギリの境界線で表現される、自伝的な曲だ。ジャニス・ジョプリンを歌いたかったのに、今夜も夜の街をドサ 回り。アタシの青春をかえせ!とシャウトする姿は、まるで一人芝居を見ているかのようでもある。さらにチャボが 彼女のために作ったという”キャデラック”や、斉藤和義のカバー曲”ささくれ”も披露された。
ステージ後半、「美しいもの、好きよ。」といたずらっぽく語り、七色に光るおもちゃのような指輪をつけて見せな がら、最前列のお客さんにハイタッチして無邪気にはしゃいで見せるかと思えば、ステージ上で身体を揺らす姿は、やっぱりセクシー。野暮を承知で書かせて頂くと、彼女は今年、御年61歳だそう。見えない。なんというエモーシ ョナル!夏木マリが見せるさまざまな「顔」に、この日苗場食堂に集ったフジロッカーは皆、魅了されっ放しだったのだ った。
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