フジロック・マジック
フジロックのオーガナイザー、日高正博氏のインタビューで語られているように、当初はブライアン・イーノが予定されていた、ヘッドライナー前のポジション。今年のフジロックの一番の目玉であるビョークの前に演奏できるアーティストなんて、世界広しといえども、指折り数えられるくらいしかいないわけで、その枠を決めるのはとても難しかったと思う。
ビョークにバトンを渡す重要な役割を担ったのは、アンダーワールドの活動で有名なカール・ハイド。今年、自身初となるソロアルバム『Edgeland』をリリースし、4月には『SonarSound Tokyo 2013』のヘッドライナーとして日本でのお披露目公演を行った。そのライヴを観たのだが、アンダーワールドのときよりもカールが「歌うこと」に重きを置いていたというのが率直な感想だ。
2時頃から降り続いた大雨がようやく止んだ。アンビエント・ミュージックといっても過言ではない『Edgeland』の楽曲を、雨具のフードを被って聴くなんてことは絶対に考えられないので、雨が止んで本当によかった(叩き付けられる雨の音でしっかりと音楽が聴けないから)。定刻通り、バンドメンバーを引き連れてグリーンステージに登場したカール・ハイド。アンダーワールドのカール・ハイドはフジロッカーにとってはおなじみだけど、バンドのヴォーカリストとしてのカール・ハイドを目撃するのは多くの人にとって初めての経験だと思うので、しっくりこなかったかもしれない。もし、アンダーワールドのようなライヴをカール・ハイドがソロでしてくれるのだと考えていた人がいるのなら、その人は相当な肩透かしを食らったはずだ。
ソロのカール・ハイドはアンダーワールドのときと比べると、まったくといっていいほど踊らない(もちろん、オーディエンスも踊らせない)。歌うことに神経を100%集中させたいのか、カール・ハイドの代名詞であるキレキレダンスを封印する。それは、楽譜をおく譜面台がカール・ハイドの隣に置かれていたことからもよくわかる。きっと、一音一音を大切に奏でたいのだろう。アンダーワールドのライヴではアンセムとして鳴り響く、“Jumbo”や“Between Stars” ですらアンビエント調のゆるやかな楽曲へと変わっていた。
終盤、曇りがかっていた空から夕日が差し込み、綺麗な黄昏時が訪れた。オレンジ色に輝く空の下で、叙情詩を歌い上げてるかのような曲が映し出す、魔法がかった世界観はとても幻想的だった。まさにフジロック・マジック。音楽と自然現象が生み出す、神秘的な体験をそこにいたオーディエンスは経験したのだ。カール・ハイドの描く世界に陶酔し、その穏やかさにいつまでも包まれていたいと、そこにいた誰もが願わずにはいられなかったはずだ。
「自然×音楽=∞」ともいえる、本当に素敵なライヴだった。音楽と自然の不思議な関係。豪雨で体力を奪い、人の心を完膚なきまでに叩きのめすこともあるが、ときには、今までにみたことのない、幻想的な世界へと導いてくれることもあるのだ。
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