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Posted on 2013/07/27 23:00
  • ライブレポート
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GARTH HUDSON(The Band/The Last Waltz) featuring Sister Maud Hudson

限りなく天国に近づいた至福の2時間

1937年8月生まれというからもうすぐ76歳となるのが、ロック史に残る最重要バンドのひとつ、ザ・バンドで最年長だったガース・ハドソン。年齢はわからないんだが、車椅子でステージに登場した彼の妻、シスター・モード・ハドソンもかなりの年齢だろう。おそらく、日本で彼らを生で見る最初で最後のチャンス… と、そんな想いでここにやってきたザ・バンドのファンは一人や二人ではなかったはずだ。

すでに説明の必要もないだろうが、86年にリチャード・マニュエルが自殺し、99年にリック・ダンコ、そして、昨年4月にリヴォン・ヘルムが他界している。ほとんどの曲でヴォーカルをとったのがこの3人で、残された二人のメンバーのひとりがガース・ハドソン。とはいっても、彼はヴォーカリストではない。そんな意味で言えば、ザ・バンド的なイメージを彼のライヴに求めることはできないのでは.. と思える一方で、実は、あのサウンドを支えた要が彼だったことを知らしめてくれるのではという期待に胸を膨らませていたファンも少なくはなかったはず。それを見事に見せてくれたのがこの日だったのかもしれない。

開演予定の10分ほど前にステージに行ってみると、奥に和太鼓が顔を覗かせ、パーカッションやドラムスの前、中央にギター、上手にベース、サックス、キーボードが設置されている。下手にはガース・ハドソンを囲むようにピアノ、キーボード、オルガンが並べられ、サウンド・チェックが行われていた。その中にちらりと顔を覗かせる白髪の老人こそがガース本人。なにかの問題があったんだろう、調整に手間取り、全てが準備できてライヴが始まったのは9時半頃だった。

楽器構成を見て大所帯のバンドかと思いきや、ドラマーとパーカッション奏者にギターと基本的にはベースを演奏しつつヴォーカル、サックスにキーボードも担当する4人がバンドのメンバー。そこにガースの鍵盤楽器が加わり、シスター・モード・ハドソンがヴォーカルという構成となっている。

2台の大太鼓が叩かれた後、シスター・モード・ハドソンのアカペラでライヴは始まっていた。すでに背中が丸くなってしまったガースが姿を見せての1曲目は「Don’t Do It(ドント・ドゥー・イット)」。時に宗教音楽からクラシックにプログレやジャズまでをも飲み込んだ彼独特の音やフレーズが出てくる度ににんまりするファンの数々。ちょっと顔を下に向けて演奏するスタイルも映像でお馴染みなんだが、おかげでガースの顔を正面から捕らえる写真はほとんど撮影できなかったようだ。

おそらく、日本へのサービスという意味もあったんだろう、続いて演奏されたのは再結成後の『ジェリコ』に収録されている「Move To Japan」。その後、ラテン系の2曲が演奏されたのには驚かされたが、この日演奏曲のほとんどがザ・バンドの名曲だった。「This Wheel’s On Fire(火の車)」や「It Makes No Difference(同じことさ)」に、イントロだけで大歓声となった「Chest Fever(チェスト・フィーバー)」からオーディエンスも歌った名曲「The Wight(ザ・ウェイト)」などなど。

曲によってシスター・モードがリード・ヴォーカルだったり、マルチ奏者のマーティ・クレッブが担当するんだが、懐かしい名曲が演奏される度に思い浮かべるのは聞き慣れたヴァージョン。特に後者のマーティが歌うときにそれが顕著だったのは仕方ないだろう。「アイ・シャル・ビー・リリースト」ではどうしたってリチャード・マニュエルが音の向こうに聞こえてしまうのだ。が、それはオリジナルへの愛情の証なんだろう。加えて、どこかで彼もリヴォンもリックも天国からここに舞い降りているかのような嬉しい錯覚も感じながら、至福の時を過ごすことになる。

その名曲の後、ガースとシスター・モードを送り出して、再び和太鼓でライヴの幕を閉じるという構成だったんだろう。そして、アンコールではガースが圧巻のソロ。童謡や伝統音楽を思わせるフレーズから始まって、彼の世界に広がる無限の音楽がまるで川の流れのように、時には穏やかに、そして、時には激しくあふれ出てくる。ブルースからラグタイムやニューオリンズにブギウギからクラシックにジャズ… これこそがザ・バンドの「裏」に脈々と流れていたことを再確認するのだ。

最後に向けて、シスター・モードを呼んで二人で演奏されたのが、アルバム『ミュージック・フロム・ビッグピンク』の巻頭を飾る感動の名曲「Tears Of Rage(怒りの涙)」。これがジーンと胸を打つ。面白かったのはその後、次に何を演奏するのか… ガースとアーティが打ち合わせをしている様子。これぞ本当のアンコールだろう。最後の飛び出したのは「The Shape I’m In」となる。

「もう、彼がここに来てくれただけで幸せよ」とそんな声があちこちから聞こえてくる。感謝の拍手にアンコールを求める声が交差しつつ、会場を後にする人もちらほら出ていたのだが、再び姿を見せてくれたのがガース。ピアノのストールに腰をかけ、再びソロで奏で始めていた。その音色は限りなく優しく、美しい。なにやら彼が「呼んでくれてありがとう」とピアノで僕らに語りかけていたように思えるんだが、どうなんだろう。

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