ほのかに燃え上がる演奏
グリーン・ステージに登場したヘッドライナーのビョークのアクトも終了し、いまだ興奮も冷めやらぬフジロック二日目の深夜。前夜祭から断続的に降り続ける雨などものともせず、場外の不夜城エリア、パレス・オブ・ワンダーのにぎわいはいよいよ最高潮を迎えていた。
鉄のオブジェが火を吹き、スリリングな曲芸パフォーマンスが来る者の目を奪い、エリア内に位置するクリスタル・パレス・テントでは刺激的なアクトが繰り広げられ、一晩中音楽で満たされる…この不思議な空間の一角に、オーディション形式の新人登竜門ステージ、ルーキー・ア・ゴーゴーはある。かつてこのステージに立ち、今では場内のメイン・ステージに登場するアーティストも少なくない。
今夜最初にステージに立つミツメを見ようと不夜城エリアへ向かうと、”cider cider”が演奏されているのが聴こえてきた。そして目に入って来たのは、サウンド・チェックをする彼らを見ようと、すでにステージ前にビッシリと詰まる人・人・人。ルーキー・ステージには毎年毎晩足を運んでいるけれど、開演前からこんなにお客さんが殺到している光景は初めて。これから登場するバンドが、いかに注目を浴びている存在なのか。目の前の光景はそれを強烈に物語っていた。
ミツメとは、ギター&ボーカルの川辺、ギター&シンセサイザーの大竹、ベースのナカヤーン、ドラムの須田による四人組。つぶやくようなボーカルにローファイなギター・サウンド、シンセサイザーのサイケデリックな音が混ざり合って、平熱のまま沸騰するかのようにステージを包んでいる。お客さんもまた、熱気を保ったまま演奏に酔いしれているかのようだ。
淡々と演奏しているように見えて、その実、メロディは際立っている。サイケデリックでフォーキーな演奏の広がりがじわじわと、しかし確実にパレスを侵食していた。興奮を寸止めしてキープするような演奏は、きっと意識的なもの。お客さんもまた、惹きつけられたまま、静かに熱を帯びている。決して派手に燃え上がるわけでは無いけれど、確実に消えないほのかな炎。そんな不思議な熱みたいなものがルーキー・ステージを支配してしまう、他に類を見ない現象を目撃してしまった夜だった。
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