歌で話せば世界はせまい
朝イチのホワイト。10時頃から丹念にサウンドチェックする七尾旅人に遭遇。さすがに小鳥や犬たちは来ていないようだが、森から野鳥の声がするだけで、彼のライブはもう始まっているような錯覚に陥る。美しい朝。
さて、本番。黒いスーツにおなじみの麦わら帽子、その上には「VOICE」と描かれた電球のオブジェをはじめ、ウサギやゾウ、そしてピストルなどが乗っている。今回は梅津和時(Sax)と二人のステージだ。「ホントは2時間ぐらい喋りたいけど、ロックンロールについて。でも時間がないから進めますね。しかもステージ広い上に、二人とも小柄だから(笑)。だけど小さな巨人って言われてる二人だから20〜30人のバンドに匹敵しますから」と、歌い始める前からMCがとめどない。しかし意外とすぐにおなじみのスタンダードナンバー゛星に願いを゛が離陸する。昼間のホワイトの空に星を出現させようと、大気圏に突入するようなエフェクトをかけた声と梅津さんのフレキシブルなサックス。そこに山のもののけたちの声も加わってエンディングで宇宙旅行から帰還した気分に。
2曲目は、せつなすぎるラブソング(広義の意味で)゛サーカスナイト゛。オートチューンはちょうどコブシのような効果でもって、旅人のソウルをふわっと発散させる。曲が進むに連れ、シャウトしながらエフェクト操作をする姿は、天性のシンガーとトラックメーカーが合体することはありえるんだということを眼前で証明する。ものすごいエモーション。続くは重いベースラインのようなフレーズをアコギの低音弦で鳴らす放浪の民たちのエレジーにも似た新曲である゛気球゛が聴けたのもうれしい。
振り返るとホワイトの後ろのほうまでかなりの人でうめつくされてきた。潜在的な七尾旅人人気というか、気になる存在っぷりを思い知る光景である。人も増えてきたところで、彼は目下いちばん新しい試みである、世界の誰も真似できない人間プラス小鳥や犬、昆虫たちも交えたオーケストラ、<VOICE! VOICE! VOICE!>について話しだす。「デビュー当時から言葉じゃなくて、歌で話せばいいってずっと言ってきて。デビュー当時は小馬鹿にされたけど、さすがに30歳過ぎても言い続けてると馬鹿にされなくなった」というMCに歓声が上がる。今日は残念ながらオーケストラは来ていないので、オーディエンスでVOICE!〜をやってみようと、未発表曲である゛Happy Talk゛を披露。コール・アンド・レスポンスは苦手と言いつつ、ホワイトを3つのエリアに分けておのおののメロディを皆で歌い続ける開放感が心地いい。ドシラソファミレドと降りてくるキラキラした音と、セカンドライン調のシャッフルするリズムに乗せて大きくなるみんなのVOICE。そのコミュニケーションを祝うように旅人が花火の効果音を放つ。ドドーン、パチパチ…昼間のホワイトに炸裂する花火。音だけではあるけれど、そして言葉はないけれど、イメージができればそれはあるのとおんなじだ。決して越えられない壁みたいなものを歌でなら越えることができるかも?と七尾旅人が思わせてくれる瞬間だ。
なにやら楽しい空間にいわゆる人気曲と言って差し支えないだろう゛Rollin’ Rollin’゛がぐっと大人っぽいトラックで滑りだすと、オーディエンスが揺れ始め、やさしい歌も熱を帯び、旅人と梅津さんのアドリブは激しさを増していく。特に梅津さんのソプラノ、アルトのサックス2本同時吹きには驚いた。再び大気圏に突入するような圧がサンプラーから放出されきってエンディング。最後に「ロックンロール!」と絶叫したのが少し意外だったが、思わず出たその一声に大きな拍手が沸き起こった。今日ここで七尾旅人の歌に出会った人たちがみんな自分の歌で話すようになれば…フェスティバルという営みにすごくフィットしたあっという間の45分がおのおののこれからの毎日に痕跡を残しますように。
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