アウェイだと思ったら意外にホームだった
2011年より開催されているフジロックでのアトミックカフェもめでたく最終日。金曜日に続いて司会を担当する津田大介に加えて、作家・思想家の東浩紀が大トリとして登場である。数日前からtwitterにてずいぶんフジロックを警戒する発言を繰り返した東であるが、彼の言葉は苗場でどのように響くのだろうか。ジプシーアバロンは客の入りも上々で、日本屈指の思想家の登場を今か今かと待ち望んでいた。
トークのスタート時はやや会場の様子を見たのか、twitterでの発言が誤解を伴って拡散したり叩かれたりすることを嘆いてみせた東であったが、「脱原発や原発ゼロを目指すために必要なこと」へと話が進むと口調が熱気を帯びてきた。
まずは新設阻止である、と東は断言する。その上で「経済成長はいらない」「原子力技術はいらない」といった分断的な話法は経済界や科学者との溝を深くするばかりで、ものごとが進んで行かないと指摘する。
これまでの日本が原子力を選択した経緯は、天然資源の不足や科学立国という方向を考えると妥当だっただろう。そして、一度原子力に頼った国だからこそ、今回の事故を受けて時間をかけてでも、そこから脱して行くことが求められている。これは他の国への希望になると同時に、経済成長や科学技術の発展と矛盾しないのだ。東がそう述べると、客席からは拍手が巻き起こっていた。
ここで津田より、現在求められているのは明快な方向性であり、バランスを志向する中庸な姿勢は現在多数派となっている「大資本」や「原子力村」に結果的に取り込まれるのではないかと質問が出た。これは昨日のアトミックカフェで出された論点であり、アーティストの立場として佐藤タイジや加藤登紀子らが主張していた姿勢とも重なる。
しかし、東の関心は「東電が悪い」「政府が悪い」といった犯人探しではなく、そこからどう話を進めるのかという点にあるようだ。チェルノブイリに比べて日本は人口密度が高く、ある程度放射線量が高い地域にももたくさんの人が住まなくてはならないことを踏まえる必要がある。このどうしようもない現実を受け入れ、原発事故を起こした国の住人としてアイデンティティを確立せざるを得ない局面にいると、東はいう。
話はここで、東や津田らが取材で訪れたチェルノブイリへと移行した。チェルノブイリ訪問により東が得た教訓は、「人間は忘れっぽい」という点に尽きるとのことだ。
「福島は死の街だ」「あそこにはもう人は住めない」という急進的な主張は、実は「福島を忘れたい」「目にしたくない」と言って「忘れよう」としている気がすると東はいう。ウクライナでもチェルノブイリの事故は忘れられかけていたし、われわれも、10年、20年と経過するうちに福島のことを忘れて行くだろう。「人間はそれくらいバカだから」それを阻止するための方法を講じるべきだという。
こうした考えから東が提案するのが、福島第一原発観光地化計画である。
この計画に対して、例えば「早急である」という批判があり得るかもしれない。しかし、福島第一原発は現在の技術の力では収束させられないために「早い遅い」といった問題自体が成立しない。さらに、現在政府がやっているような警戒区域のなし崩し的な再編(放射線量の高い地域であっても実際には立ち入り可能になっている)もまた「事故をなかったこと」にしようとする姿勢であり、そちらの方が大きな問題だと東は述べる。
凛とした東の弁に会場は静まり返っていた。
それに気づいたのだろう。東は「今日おかしくない?なんでこんなアジテーションみたいなことやってるの?」と笑いを誘った。「ここはアジテーションの場ですから…。それに、立って話しているからですかね」と津田が応え、会場の空気は和やかなものとなった。
観光という言葉に東がこだわる他の理由として、たくさんの来訪者の視点にさらされることはが情報公開につながるという点があるという。情報はただ公開しているだけでは足らず、ある程度売れる・人の注目を集めるというドロドロした部分に突っ込んだ上で「見に行きたい、見てみたい」と思わせる必要があるというのだ。
東は、そのきっかけは「不謹慎」であってもいいのだという。「フクイチに行ったらでっかいきのこがあるらしい」といったものですらかまわない。まず訪れて、そこから何を考えるのかという出口が大切なのだと東は強調する。実際に現地を訪れてみることで、人間がコントロール不能なものに手を出してしまう業のようなものを感じ取ることができるはずであり、その滑稽さと崇高さ、さらにそれらが混じりあって悲劇を生むという状況を感覚的に掴めるのではないかというのだ。
東にとって、原発との対峙は人知を超えた存在、つまり神との対峙であるようだ。反原発は生活をコントロール可能な状態に保つという姿勢であり、人間がそれでやっていけるのかについて結論が出ないと東はいう。しかし、これだけ大きな事故を起こした先進国で脱原発ができなかったら、人類はどこの国も脱原発はできなくなる。政治的にも経済的にも外交的にも大きなチャレンジだが、だからこそバランスをとりながら進めるしかない、と述べていた。
会場を埋め尽くした色とりどりのフジロッカーは、東と津田の話に真剣に聞き入り、時に笑い、大きな拍手を送っていた。洋楽を好み社会に関心を持っているジプシーアバロンの住人は、東とそれほど遠くないのではないか。アウェイだと思ったら意外にホームだった。お互いにそれを確認できたアトミックカフェの最終日だった。(文中敬称略)
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