小池龍平と長久保寛之。ふたりのギタ—・マエストロが、アバロンステージに現れた。小池は今回のフジロックでは畠山美由紀のサポートを行っており、これまでにも自身のバンドであるハンズ・オブ・クリエイションで苗場食堂に出演。また、ボニート名義でのソロ・プロジェクトでは、サマーソニックに出演した経験もある実力派だ。対する長久保は曽我部恵一ランデヴーバンドのメンバーであり、その他にも数多くのアーティストのサポートを行っている。フジロックで彼の演奏を見たのは、2010年の児玉奈央のステージ。パッと思いつきはしないが、他にもさまざまな場所で彼の演奏を目にしている。アーティストからの信頼がそのままステージ数につながっている、こちらもやはり実力派のギタリストだ。
余裕を持って30分ほど前に到着したのだが、小雨だった雨は徐々に強くなっていく。開演時間が迫るに連れて、雨のレベルも大雨、豪雨と変化していった。これにはアーティストを呼び込むMCも苦戦し、「みんな前に来ようよ、こんな雨だから奇跡が起きるかも…」と、苦い笑顔で言葉を発する。開演当初、演奏する側からすると決して良い環境ではなかった。しかし、鞭とともに飴もくれるのがフジロックの粋なところ。2曲目、ビートルズのカバー”ブラックバード”が終わるころになると、徐々に天候が回復していった。小雨が降り続くも、後方からは太陽の光が注ぎ込まれる。
3曲目がはじまる頃だっただろうか。ステージにゲストミュージシャンが呼び込まれる。コパ・サルーボのメンバーであり、同日の朝一番には光風&グリーン・マッシブとして出演していた鍵盤奏者の小西英理と、同じく光風&グリーン・マッシブのメンバーであり、前日には自身の名義で木道亭に出演したカラムシがステージに登場。躍動感と、ビジュアル的な華やかさが加えられ、雨でテンションが高くなったオーディエンスからは、ひと際大きな歓声が飛び出していく。途中、あまりに大きな声が発せられており、その方向に目をやると、その主は光風&グリーン・マッシブのフロントマンである光風であったことが判明する。直前にはバスカーストップで演奏をしていたはずなのだが、終わるやいなや、仲間が演奏するアバロンへと駆けつけたようだ。
豪雨と晴天という、フジロックの天気を凝縮したような密度の濃い時間がアバロンに流れていた。次が最後の曲だという小池のMCで、改めて時間の経過の早さに気づかされる。最後の曲はベートーヴェンのカバー…、カバーという説明はどうにも違和感があるが、”エリーゼのために”を披露。広く知られているメロディーであることもあり、オーディエンスも心地良さそうに体を揺らす。そんなフィナーレへ向かう最中のこと。「長久保ー!」と、ひと際大きな声が響く。声の主はやはり光風。光風&グリーン・マッシブの元メンバーである長久保に怒声が届くのだが、その瞬間にバンドの演奏がストップする。「…Bだよね?」と、壇上で構成を確認する小池と長久保のふたり。苦笑いをしながら演奏を再開すると、その微笑ましさからか、オーディエンスからはこの日一番の歓声が上がったのだった。
当初はまったりと座りながら聴くステージを予想していたのだが、それは見事に外れ、終始立ちっぱなし、踊りっぱなしの数十分となった。天候とオーディエンスを味方につけたこの日の演奏。フジロックだからこそ見られた名演奏だったのではないかと思う。
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