T字路s劇場・苗場番外地
2011年のフジロックは衝撃的だった。今年同様にフジロックで行われているライヴのレポート作業をしていると、突如聴こえてきたのはモーレツにドスのきいた歌声。そして、決して知らぬふりは出来ないインパクトを放つ演奏。それは苗場食堂で行われていた、T字路sのライヴだった。
「こんにちは、T字路sです!イエー!最終日のジプシー・アヴァロンに、ようこそおいで下さいました!ありがとう。ギッタギタの、メッタメタに熱演いたしますので、楽しんでいただけたら幸いでございます。よろしくどうぞ!」
T字路sとは、DIESEL ANN(ディーゼルアン/現在活動休止中)の伊東妙子をボーカル&ギターに、クール・ワイズ・マンのリーダー篠田智仁をベースで構成された二人組のブルース・ドュオだ。あれから二年。T字路sは今年、バンド編成をともなって、再び苗場に戻ってきてくれていた。
ライヴは”蛙と豆鉄砲”で始まる。昭和の残侠感たっぷりの佇まいと、パンチのきいた妙子姉さんの歌声。フォーク&ブルースなのだけれど、「和製」なんて表現は生ぬるく感じられるほど、根底にあるのはまさに日本土着のソウル。
“風来坊のララバイ”、”宵待草”、”泪橋”とまるで講談師のような「けれん味」あふれる演奏で、渦巻く情念を表現していく一方、演奏の合い間にひとたび口を開けば、きさくなおばちゃん感(失礼!)満点。物販の手ぬぐいでこれ見よがしに汗を拭いて見せると、お客さんから和やかな笑いも起き、「かわいい!」の声も飛んでいる(本人はこれを「どすこい」と聞き間違えてシコを踏んでいたのだが)。
「フジロックはさ、二年前に出た時に初めて体験したわけなんですが、本当に、楽しいじゃない?素晴らしいわ。素晴らしいフェスティバルだと思います。そして今日もみんな、楽しそうね。だけど…本当は…心の中に、毒ヘビ飼ってんだろぉー!そうなんだろぉー!毒ヘビロック、お届けします!」
景気よく妙子姉さんがこう叫ぶと、”まむしは眠ってる”が始まった。弾くというより「叩く」と表現したくなる迫力のステージングに、通行中だったお客さんも衝撃を受けたような表情をしながら、次々と足を止めている。そう、T字路sの演奏に出逢ってしまったら、決して知らぬふりなど出来ないのだ。
先月に発売されたばかりのニュー・アルバムから”これさえあれば”やベッシー・スミスの日本語訳カバー”電気椅子”も披露される。日本語訳詞でのカバーは、浅川マキに触発されたもの。愛した浮気男の喉をかき切り、生きていてもしょうがないから、電気椅子送りにして裁判長さん、とシュールな歌詞が鍵盤やサックスの演奏も加わって、なんともジャジーにユーモラスに展開する。
最後にはカンザス・シティのカバー”新しい町”、そしてドスのきいたコール&レスポンスも愉快な”T字路sテーマ”でライヴは大拍手のもと、幕を閉じた。展開されたのは日本語であったけれど、終演後、「ワンモア!ツーモア!」と外人のお客さんが大喜びで熱烈アンコールをしていたのも、印象的な光景であった。
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