キャット・パワーの贈り物
フジロック最終日、日曜日のホワイト・ステージ。日はすでに暮れてしまい、あたりはステージの明かりで照らされているのみ。このステージにキャット・パワー (Cat Power) ことショーン・マーシャルが登場した。アメリカ出身の彼女はニューヨークを拠点に活動し、名門マタドール・レーベルからアルバムを発表し続けているシンガーソングライターだ。
2012年には、ほぼ6年ぶりとなるオリジナル・スタジオ・アルバム『サン』をリリースし、世界的にも高い評価を得ている。彼女は独特の声を持っており、時には「誰にも似ていない声」と評されることもある。その声は彼女のオリジナルなスタイル、叙情性の高い曲、感性とあいまって、独特の存在感を構築している。
ピースマークをモチーフにしたデザインが背中にある革のジャケットに身を包んだショーンがステージに登場すると、「The Greatest」のイントロが流れる。はじめのうちは静かな曲調だが、徐々に彼女の歌声に力が入ってきて、最後は感情の高まりを抑えきれないような力の入った曲となった。
そのほかにも、「Cherokee」「Manhattan」「3,6,9」など、『サン』からの曲が中心の選曲で、パフォーマンスを見せてくれた。ステージの上を自在に動き回り、時には足を後ろに蹴って前に進むような動きのパフォーマンスも披露してくれた。
彼女の歌声が微妙なハーモニーをともなって聞こえる理由の一つが、特殊な配置のマイクスタンドだ。彼女のマイクスタンドは2本立てており、一つは通常のもの、もう一つはエフェクトのかかった声が出るようになっている。その二つのマイクを同時に使うと、微妙なハーモニーとなる。彼女はこの2本のマイクを巧みに使いこなし、彼女の歌声に独特のコーラスを演出していた。
少し体調がすぐれないのか、時々咳払いをしていた彼女。MCでの「アリガトウゴザイマス」という声は少し枯れているようにも聞こえたが、歌声は決して衰えることはなく、力強いパフォーマンスを最後まで披露してくれた。
一番最後に演奏された「Ruin」のイントロでは、花を抱えた彼女がその花を観客に向かって投げていた。その歌のタイトルとは対照的に、彼女の歌を聴くために苗場のホワイト・ステージに集まってくれたオーディエンスへの、彼女からの感謝の贈り物だった。
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