ピンチがクライマックスに変わる
ヴァンパイア・ウィークエンドの日本での人気はすさまじく、グラストンバリー・フェスティバルでヘッドライナーを務めたマムフォード・アンド・サンズを抑えてのグリーンステージ出演となる。しかも、活動歴25年を超えるザ・キュアーの前のポジションを任されているのだから、前回と同じグリーンステージだとしてもその責任の重さは全然違ってくる。
まだステージの照明が消えていないうちから、ヴァンパイア・ウィークエンドの登場を待つオーディエンスの手拍子が自然とおこる。沼地と化してるエリアにはあまり人がいないが、しっかりとグリーンステージに人が入っている。ステージが暗転し、ロシアを代表する作曲家、モデスト・ムソルグスキーの“展覧会の絵”が流れるなか、メンバーが姿をみせる。 一曲目は“Cousins”。軽快なアフロビートの親しみやすいメロディを聴けば、自然と身体が踊りだす。
インディ・ミュージックのシーンで活躍するバンドだけあって、若いオーディエンスが多い。若いといっても、洋楽が大好きなナードのお兄ちゃんからクラヴによく行くお姉ちゃんまでと、裾野がとても広い。スカで踊るもよし、ロックンロールを歌うもよし、パンクでモッシュをするのもよし、熱心に聴き入るのもよし、とさまざまな聴き方が可能だ。この幅の広さがヴァンパイア・ウィークエンドの魅力のひとつでもある。
オアシスエリアの人々にも彼らの音楽が届いたのか、どこかのステージが終わったからか、三曲目の“Cape Cod Kwassa Kwassa”当たりからグリーンステージにますます人が増えてきた。ヴァンパイア・ウィークエンドのメンバーに「ロックンローラー」なんて言葉は似ても似つかないけれど、眩いライティングのなかで、オーディエンスに手拍子を促したり、合唱をさせたりするステージングはロックンローラーそのものだった。
新曲の“Diane Young”ではあちらこちらで「ベイビー、ベイビー」の合唱がおこっていたし、 彼らのライヴにおける定番曲になることは間違いないだろう。しかし、このバンドのアンセムは “A-Punk”以外に考えられない。エズラがイントロのリフを弾いている最中に、ギターの弦が切れるというハプニングがあったのだが、素晴らしかったのは、リズム隊がここで演奏をとめずに続けたこと。エズラも「このまま続けるよ!」とオーディエンスに手拍子を促すことで(手拍子をしたフジロッカーズもあっぱれだ!)、ギターの替えが届くまでの時間をより一層ライブを盛り上げる時間へと昇華させた。ピンチをチャンスに変えるとはまさにこれのこと。再びイントロのリフが鳴らされたときの、オーディエンスから発せられるエネルギーはすさまじかった。当然ごとくサビの部分は大合唱だし、モッシュピットではダイブをしている人もいた。「センキュー、フジ!」と演奏後にエズラが言ったのも納得である。本当に最高の瞬間だった。
まだライヴで軸となっているのは、ファーストアルバムとセカンドアルバムからの曲である。だが、「次なるステップへ行くために、これまでで一番落ち着いた作品にしよう」という目標をもってつくられたサードアルバムの楽曲たちが今後どのように鳴り響くのか。その答えによって、ヴァンパイア・ウィーケンドのこれからがみえてくるはずだ。最後には「また、近いうちに会おうね!」と言っていたので、近いうちに再び彼らと会えるチャンスがあるのだろう。はやくも、その瞬間が待ちきれない。
— set list —
Cousins / White Sky / Cape Cod Kwassa Kwassa / I Stand Corrected / Diane Young / Step / Holiday / Unbelievers / Everlasting Arms / A-Punk / Ya Hey / Campus / Oxford Comma / Giving Up the Gun / Obvious Bicycle / Walcott
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