ディテールまで研ぎ澄まされた圧倒的な世界観
興奮と吃驚で、頭の中がずっと白く明るい光に染まっているようなライブだった。今年のフジロック、ホワイトステージの大トリを務めたThe xxのステージで、彼らは徹頭徹尾の美学でホワイトステージに巨大な白昼夢を生み出した。
ホワイトステージから溢れるほど観客が詰めかける中、いつものように黒ずくめの衣装で登場したThe xxの3人。鳴り止まない歓声の中で、“TRY”でライブがスタートする。途端に観客からは拍手&大歓声が上がる。この後も、次の曲が始まるたびにイントロで大きな拍手が起こっていた。The xx、ものすごい愛され方である。
驚かされるのは、サウンドの音数の少なさだ。徹底的に音数を絞りきったミニマムなサウンド。だからこそ、ロミー・マドリー・クロフト(ボーカル&ギター)とオリヴァー・シム(ボーカル&ベース)が歌うメロディの美しさや情感、リズムの繊細さが際立って聞こえるのだろう。音と完全にシンクロした照明も相まって、The xxでしかあり得ない音像をホワイトステージに描いていく。
ステージ上で演奏しながらクネクネと踊ったりしているロミーとオリヴァーに比べて、とにかく忙しそうにしているのがジェイミー・スミス(キーボード、プログラミング)だ。MPCを叩いてベースとなるビートを繰り出す一方、キーボードを弾いたり、ドラムを叩いたり、あれやこれやと働きながらミニマムなサウンドの屋台骨をガッチリと支えている。“HEART SKIPPED A BEAT”を終えて、「コンニチハ、フジロック」とオリヴァーが短く挨拶すると、続いては、大きな歓声に迎えられた“CRYSTALISED”を披露。歌い終えると、紅一点ギタリストのロミーが小さなかわいい声で「アリガト」とつぶやいた。
“REUNION”ではロミーとオリヴァーがチークダンス風の踊りをみせてくれる。音の印象から、もっと淡々とクールなパフォーマンスを見せるのかと思いきや、フィジカルで人間味をステージで感じさせる3人であった。MCでは「メインステージでキュアーがやってる時に、僕たちのライブを観に来てくれてありがとう」「キュアーは僕たちのフェイバリットバンドなんだ」と、グリーンステージで演奏しているUKの先輩バンドの名を何度も語っていた。
ミニマムかつダイナミックなサウンドを響かせ、ホワイトステージを圧倒する彼らのステージは、曲が進むごとにさらにディープさを増していく。ロミーの歌声は気だるくも艶やかで、オリヴァーの囁くような歌声と相まって、アンニュイな物語を紡いでいるかのようだ。ホワイトステージの観客は、大合唱するわけでも、激しく踊るわけでもなく、ましてやダイブする人など皆無なのだが、それでもThe xxのステージを見守る観客一人ひとりの心は燃えていたはずだ。The xxのステージを見ていると、心の底がふつふつと燃えたぎっていくような思いがする。みんな夢中になって、彼らの鳴らす一音一音を大切に捕まえようとしていた。ドラマチックなサウンドスケープを描いた“SHELTER”では、ラストにロミーとオリヴァーが向かい合い、顔と顔がひっつくぐらいまで近寄るパフォーマンスをみせる。逆にアルバムより速いテンポで演奏した“ISLANDS”では2人が背中合わせで演奏し、会場からは一際大きな歓声が上がった。
ジェイミーがシンバルを叩き、曲後半につれて激しさを増していった“INFINITY”でホワイトステージを壮大な盛り上がりに包むと、ステージにはレーザーライトによって巨大な「X」の文字が浮かび上がる。沸き起こる歓声の中、彼らが“INTRO”を演奏すると、ホワイトステージの興奮は最高潮に。そしてラストはジェイミーがドラムを激しく叩いた“ANGELS”でフィナーレした。70分弱という大トリとしては短めのステージだったが、それでもホワイトステージの観客の胸に忘れられないほど深い余韻を残す、鮮烈なパフォーマンスだった。間違いなく、今年のベストアクトの一つ。
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